第9章 駈けだす想い
ヤカンになみなみと水を入れ沸かし始めたクレアは、追加の2つ分のティーセットを棚の上から出そうとするが、背伸びをしてもなかなか届かなかった。
諦めて踏み台になるものをと……探そうとしたところで、眉間にシワを寄せたリヴァイが手際よく棚から追加のティーセットを取ると、トレーに並べ出す。
「あ、ありがとうございます!」
「4人分だ。手伝う……」
一生懸命腕を伸ばし、つま先立ちになって取ろうとする姿が、なぜだか可愛く感じてしまう。しばらく見ていたかったが、もしエルヴィンにこの姿を見られてしまったらと考えると、リヴァイの中の独占欲が断固反対していたため、仕方なくクレアを手伝うことにした。
小さな簡易キッチンに2人が並んで紅茶を入れてる姿をみると、自分はなんだか新婚家庭にお邪魔した客人のようだなぁとハンジはニンマリと考えながら口元を緩くした。
しかし、そんなことを口にしてリヴァイの機嫌を損ねる訳にはいかない。
ハンジは余計な失言をしないようにと、エルヴィンが持ってきた焼き菓子を口に詰め込みながら紅茶が出るのを待った。
「お待たせしました!」
「待ってましたー!クレアもこっち座って!これすごいおいしいから!」
「クレア、悪いね。さっそくいただくよ。」
リヴァイの執務室で、団長含む幹部3人と朝の紅茶を飲むなど、新兵のクレアにとってはとてもおそれ多く、緊張したが、そんな緊張などすぐにすっとんでしまう程、雰囲気は和やかなものだった。
女子棟まで迎えにきてくれたリヴァイ
自分を心配し、様子を見に来てくれたハンジ
焼き菓子を持ってきてくれたエルヴィン
みな自分のためを想って、朝早くから顔を出してくれている。
その気持ちがとても嬉しく、スーッと深い傷が癒えていくのを感じた。
皆の優しさのおかげで、クレアの心と身体はもう昨日のおぞましい事件からすっかり立ち直っていた。
──壁外調査まであと5日──
──ひたすら訓練あるのみ──