第65章 女王、ヒストリア・レイスの即位
「…………」
クレアは建物の中に入ると、いかにも重要人が待機していそうな立派な扉の前まで案内された。
ーコンコンー
「女王陛下、クレア・トートを連れて参りました。」
憲兵の兵士が扉の前で敬礼をしながら呼びかけると、中からパタパタと急ぐような足音が聞こえてくる。
「クレアさん!!来てくれてありがとうございます!どうぞ、中に入って下さい!!」
ヒストリアが扉をあけクレアの顔を見ると、パアっと花が咲いたような笑顔になり、手を引きながら招き入れる。
すると、一緒にここまで来た憲兵は扉の外で待機を命じられた。
「ヒストリア…あっ…申し訳ございません、女王陛下…戴冠式はもう間もなくです。いったいどうされましたか?」
「クレアさん、公の場以外では今まで通り名前で呼んで下さい。その方が…嬉しいです。」
女王になると決まったら皆自分の事を名前で呼ばなくなってしまった。
その事に少し寂しさを感じたのだろう。
ヒストリアはせめて身近にいた人間にだけは、今までと同じ様に接して欲しかった。
「で、でも……」
いきなり皆ヒストリアに敬意を払う様な態度に変わり、ヒストリア自身も戸惑っているに違いない。
クレアはヒストリアの気持ちを理解すると、静かに頷いた。
「あっ、もう時間がない!私、クレアさんにお願いがあって来てもらったんです。」
「そ、そう言えばどうしたの?こんな私に用事だなんて…」
すると、ヒストリアは立派な鏡がかけられたドレッサーに腰掛けると、クルリとクレアの顔を見る。
「お願いです。私の髪、綺麗にセットしてもらえませんか?」
「え?私が?!」
「はい!そうです!」
突然の申し出に驚き慌てふためくクレア。
「で、でもヒストリアの髪、艶のある金髪だし、そのままでも十分に綺麗よ。私が何かをする必要なんて…ないわ…」