第64章 それぞれの決断に、変わる風向き
「やはり無理だったか…」
ギャーギャーと取り乱し騒ぎ出す駐屯兵とは真逆に、エルヴィン始めとする調査兵は悲鳴1つ上げず冷静だ。
皆頭から水を被り出撃の準備をする。
クレアも樽に入った水を頭から被ると、エルヴィンの突撃命令を待った。
壁に両手をかけ持ち上げたその身体は、長い距離を引きずって来たせいか、胸部、腹部の肉は無く、内臓が丸見えだ。
腹部と同様に引きずっていた顔面も地面により削り取られ、真っ平らな面に穴が3つあいてる。
内臓丸見えの腹部に真っ平らな顔。
何とも気味の悪い姿にクレアは顔を引きつらせた。
しかし、よく見れば口は唇ごと削げてぽっかりと穴が空いている。
奇跡的にもその口元はエルヴィンが賭けた方に軍配が上がった様だ。
あれなら火薬を詰め込んだ樽を放り込む事ができる。
エレンが爆薬を放り込んだら1番に飛び出してトドメを刺す。
ヒストリアは数奇な運命に翻弄され、傷つけられ、名前さえも取り上げられていた。
それでも今は前を向き、自身の運命を受け入れながらも自分なりの選択をし、女王になろうとしている。
二ファ達始め、志半ばで死んでいった仲間のためにこのクーデターを成功させたいと思っていたクレアだったが、こんなにも健気に女王を務めようとするヒストリアに心動かされたのも事実だ。
ディモ・リーブス、フレーゲル、ベルク社、ピクシス司令、マルロとヒッチ、そしてヒストリア…
それぞれが決断した勇気ある選択が調査兵団の味方となり、活力となりここまでこれたのだ。
あともう少しだ。
クレアは前髪からポタポタと水滴を滴らせながらその時を待った。
エレンが巨人化し、樽を積んで包んだネットを抱えると、エルヴィンが攻撃開始の合図を出す。
ーバシュッ!ー
ーバシュッ!ー
「よし!行け!!」
アルミンとサシャが、台車に乗った爆薬を発射させると、その台車はロッド・レイスの両手に向かって勢いよく走り出した。