第64章 それぞれの決断に、変わる風向き
しかし、囮が必要といえど、住民を見殺しにするつもりはない。
そのため、住民達には緊急避難訓練と称して、緊急時にすぐに避難ができる様な体制をとることで、駐屯兵団とは話がついた。
目標であるロッド・レイスはかつてない巨大な身体だが、それ故にノロマで的がデカイ。
壁上固定砲の攻撃は有効だと思われるが、それでも倒せない場合は、調査兵団最大の兵力を切り札として駆使するしかないだろう。
東の空から太陽が昇り始めると、壁上固定砲の準備も整い、住民の避難体制も完了したが、こんな早朝に叩き起こされた住民はわけがわからず不満爆発寸前だ。
「サシャ?まだ何も食べてないみたいだけど…」
命令が出るまで待機となった。
しかし、サシャが野戦食糧を手に持ったまま口をつけないのに気づきミカサが声をかけたのだが、返事は驚くものだった。
「は、はい…食欲がなくて…」
「はぁ?!本当か?」
「大丈夫かよお前…」
サシャ=食欲だ。
そんな様子に皆驚いたが、ここ数日の事を考えれば無理もないだろう。
「まぁ、いくらサシャでも食欲でねぇよな…さっきまで散々人を殺しまくってたんだからよ…」
「え……?!」
当然だが、エレンは自身が攫われた後の事はまだ詳しく聞いてないため分からない。
ジャンの“人を殺しまくっていた”というキーワードにエレンの背筋は凍るような感覚が走った。
「色々あったんだよ…あんだけ色々あってもまだこの1日が終わらねぇなんて…」
「ここさえ凌げば先が見えてきそうなのに…しくじりゃあの巨人とこの壁の中で人類強制参加型地獄の鬼ごっこだ。」
「あの王様がバカやんなきゃこんな事にはよぉ…」
疲弊した身体でも容赦なく降り注ぐ過酷な展開と作戦。
愚痴のひとつもこぼしたくなるとばかりにアレコレ喋っていると、思いもよらぬ人物が現れた。