第64章 それぞれの決断に、変わる風向き
「団長……」
「……皆、よくやった。」
皆の様子をみて労いの言葉をかけたが、クレアはこの暗がりでも気付いていた。
目の上や口元に残る傷跡を…
おそらく受けていたであろう拷問の跡を見逃さなかった。
中央第一憲兵はこれを期に調査兵団を潰そうとしていた。エルヴィンに濡れ衣を被せて処刑台送りにしようとしていたのだ。
どこまで卑劣な拷問を受けていたのかはクレアには分からないが、そんな状態の身体で一軍の指揮を取るなど無茶だろう。
腕の傷だってまだ全回復していないのだ。
クレアはエルヴィンの身体を心配したが、事態はそんな生温くはない。
「リヴァイ、今はどういう状況だ?」
「エレンがあの時の“叫びの力”を使おうとしてるが効いてねぇ…報告書はごまんとあるが…」
「あの巨人は?」
「ロッド・レイスだ。お前の意見を聞かねぇとなぁ…団長。」
巨人化したロッド・レイスは北のオルブド区の方角に向かってその巨体を這わせている。
「そうだな…あの巨人、動きは遅いが相当な熱を放出している。近づく事すら不可能だ。どういう意図があるのかは不明だが、あのまま進めばオルブド区にぶつかる。我々は馬で先回りをして対策を練ろう…」
「…了解だ。」
エルヴィン達一行は馬でオルブド区まで先回りする事となった。
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オルブド区に到着すると、エルヴィン達調査兵団と駐屯兵団で言い争いが始まった。
あの巨人はリヴァイ達の存在を無視してまっすぐここに向かっているあたり奇行種と考えていいだろう。
ハンジとエルヴィンの案は、住民を避難させずに討伐する事だった。
今一斉に住民を避難させてしまえば、より多くの人間が集まるウォール・シーナ内へ進路を変えて壁を破壊しかねないからだ。
ロッド・レイスは、囮となる大勢の住民を区内に残したままオルブド区外壁で仕留めるしかない。