第9章 駈けだす想い
「なので、同じ淹れ方をしても同じ味にならないのは至極当然のことです。その人の気持ちや性格が紅茶の味に反映されるのだと思います。」
「…ほう」
「私は淹れる人によって味が違うほうが奥深くて好きです。こういうのを「味わい」というのでしょうか…」
昔読んだ物語を思い出したのは偶然だったが、話しながら自分自身でも妙に納得がいってしまい、段々と熱の入った喋り方をしてしまった。
「おもしれぇ話だな。あっぱれ納得がいった。」
どうしてそんな話を知ってるんだ。本当に…容姿といい、教養といい、とても巨人討伐の訓練を受けてる兵士には見えねぇ…さすがはハンジ班の奇行種ってことか…
リヴァイは感心しながら最後の一口を飲み終えるとカップをテーブルに置いた。
「ありがとうございます。兵長が淹れた紅茶は私のとは違い、香りが際立っていて、とても美味しかったです。これはまさしく兵長の「味わい」ですね!」
クレアの顔は得意げだ。
「フッ、うまいこと言うじゃねぇか…」
「ありがとうございます。」
クレアは飲み終わったカップを洗おうと、2人分のカップをトレーに乗せ流しまで運んだ。
──ザァァァァ──
蛇口から水を出し洗っていると、背後からコツコツとリヴァイの近付いてくる音がする。
洗い忘れの物でもあるのだろうか。
クレアが振り向こうとした時には、すでにリヴァイは至近距離。蜂蜜色の髪の毛を手にとると、指に絡めるように梳いていた。
「……!へ、兵長?!」
「お前は危なっかしいからな…どこにいるかわかるようにちゃんと毎日香油はつけとけよ。」
そう言うと自然な仕草でからめとった髪を口元までもっていく。
びっくりして思わずカップを落としそうになってしまった。
「あ、あの昨日の荷物に香油を入れてくれたのは兵長だとフレイアから聞いたのですが…」
「あぁ、入れさせたのは俺だ。またいなくなるような事があったらこの香りだけが頼りだからな……つーかもういなくなったりするなよ。」
「は、はい………」
その優しさ溢れる言葉にはいったいどんな意味がこめられているのだろうか。
勘違いしてしまいそうな言葉は胸に切なく刺さり、クレアはただただ俯くことしかできなかった。