第9章 駈けだす想い
エルヴィンならともかく、リヴァイがこんなスマートにレディーファーストをするなど予想もしていなかった。
リヴァイに対して特別な想いを自覚したからだろうか…
ソファに腰掛け脚を組んで紅茶を飲むリヴァイがなんだかかっこよく見えてくる。
変わった持ち方で紅茶のカップに唇をつける仕草が妙に色っぽく感じ、クレアはリヴァイから目が離せなくなってしまった。
「おい、なにボケッとしてんだ。お前も早く飲め。」
「はっ!はい!」
無愛想なつっこみに我に返ると、慌ててクレアも紅茶を飲んだ。
自分が淹れるものとは少し違ったが、何が違うかもわからぬほどのわずかなものだ。香りも自分が淹れるものより一際高く、味もとても美味しい。クレアは率直な感想をのべた。
「地下の資料室で頂いた時のも美味しかったのですが、やはりお湯の温度や蒸らしがきいてますね。格段に美味しいです。」
お世辞などは一切言ったつもりはないが、何故かリヴァイの表情は不満げだ。
「…まぁ確かに悪くねぇ。だがやはりお前が淹れたのとは何か違う…うまく説明できねぇのがなんかイラつくな…」
驚くことにリヴァイも同じ感想だった。
だが悪い要素はは1つもないのだ。なんと言って納得させればよいのか悩んでいると、ふと幼い頃に読んだ本の話を思い出した。
「兵長……お茶とはとても奥深いものです。兵長は「サンゴクシ」という物語はご存知ですか?」
「サンゴクシ?いや、知らねぇな。」
「作者は分かりませんが、子供の頃に読んだ古い物語です。「ギ」「ゴ」「ショク」という3大政力の政権争いを描いた話なのですがお茶についての描写がたくさん出てきました。」
「……」
リヴァイは興味を持ったのか黙って聞いている。
「絶世の美女と謳われた姫が敵地にとらわれてしまいますが、その姫はとらわれの身でありながら言葉たくみに敵の大将をお茶に誘います。大戦の最中でありながらも、お茶の奥深さを語り、優美に振る舞う姿に見惚ていると、あっという間に風向きが変わり、火攻めに合って惨敗してしまうのです。」
「お茶にはこの物語のように、戦の勝敗を決めてしまう時もあれば、仕事の疲れを癒やしてくれる時もあり、高ぶる緊張をしずめてくれる時もあります。」