第64章 それぞれの決断に、変わる風向き
そう言ったヒストリアの表情が、少し寂しそうに見えたエレン。
「…………」
そんなヒストリアに、エレンはかけてやる言葉が見つからなかった。
母親とはずっと調査兵団の入団をめぐって喧嘩ばがりだったが、自分は自身の誕生を心から望まれて、祝福されて、愛されて育ってきたのだと思う。
その証拠に母親は、ライナー達の襲撃によって家の下敷きになったが、最後の最後で自分は置いて逃げろと泣きながら怒鳴ったのだ。
何度も喧嘩をしたが、あの光景を思い出すと、ちゃんと自分は愛されていたんだと今更ながらそう感じている。
きっとこれは自分だけではない。
ミカサだってアルミンだってそうだ。
深く語った事はないが、ジャンだってコニーだってサシャだってそうだろう。
子供が生まれるという事は…そういう事ではないのか?
そこに…その2人に愛があったからこそ、誕生したのではないのか?
エレンは自分が愛されて育ったその感覚が当たり前すぎて気がつかなかった。
それがどれだけ幸せな事なのかを…
そしてその当たり前の愛さえ知らずに育った人間も、少なからずこの狭い壁内にはいるという事に。
だが、ヒストリアはスッと深呼吸をすると、キリッと眉を上げて呟く。
「でも、もう……お別れしないと……」
その決心と芯の強さは、皆の胸にも大きく響いた事だろう。
その頃エルヴィンは、ロッド・レイスの礼拝堂を目指し、部下を引き連れ夜道を走っていたのだが、突如現れた巨大で異型な巨人に四苦八苦していた。
「ダメだ!近づくな!」
「燃えちまうぞ!!」
「付近住民の避難勧告を急げ!!」
巨体から発せられる高温の熱によって次々と木や草が燃えていく。
これでは礼拝堂どころではない。
しかし、対応に追われていると、よく知る声がエルヴィンの耳に響いた。
「オイ止まれ!!てめぇに言ってるんだ聞こえねぇのか馬鹿野郎!」
「あれは…エレンか?!」