第9章 駈けだす想い
ポットやカップを温める分のお湯も沸かしてるためか、少し時間がかかりそうだ。
リヴァイは腕を組みながらヤカンを見つめている。
いや、早く沸けと言わんばかりに睨みつけているようにも見える。なんだかこれではヤカンが気の毒だ…
クレアは何か話をしようと思った時、ちょうど手にリヴァイのジャケットを持っていたことに気がついた。
「あの、兵長。昨日お借りしていたジャケットです…ありがとうございました。早くお返ししたほうがよろしいかと思いまして、まだ洗濯していないのですが……」
「洗濯はいい。その辺に置いといてくれ。」
チラリとこちらを振り向いたが、また背を向けて無言になってしまった。
「わ、わかりました。ありがとうございます。」
再び静寂に戻る執務室。
だんだんコポコポとヤカンの中の水が揺れだす音が執務室に響きだした。
リヴァイはいつもこうやって1人で紅茶を淹れているのだろうか。
「兵長は、いつもご自分で紅茶を淹れてらっしゃるのですか?」
「……自分で淹れることもあるが、ペトラが来たときはついでに頼んでいる。そういや前にオルオが淹れさせてくれって言ってきたことがあったが、あいつの淹れた紅茶もまずくはなかったな。」
……すごい、さすがはオルオさんだ。きっと紅茶の入れ方も、ペトラさんの辛辣なつっこみを受けながら教えてもらったに違いない。
兵長への敬愛が桁違いだ。
かくゆう私も、はたから見ればハンジさんに対しての敬愛ぶりもこんな風に見られてるのだろうか。
そんなことを考えていると、リヴァイは茶こしを使って紅茶を注ぐ行程まで進めていた。
間もなく出来上がりそうだ。
2つのティーセットをトレーにのせて応接セットのテーブルまで持ってくると、先にクレアにカップを差し出した。
「え、と、兵長……?」
「……なんだよ?」
「あ、い、いえ……ありがとうございます。」
リヴァイがクレアに差し出した方のカップには最後の1滴、「金のしずく」がはいっている。
「最後の1滴が1番うまいんだろ?お前の教えはきちんと聞いていたつもりだが。」
サラッと言い放ち、自身もソファに腰掛けると、脚を組みながら紅茶を飲み始めた。