第64章 それぞれの決断に、変わる風向き
そう、父親は自分を愛してなどいなかった。
先程ケニーの言っていた話が、今見せた反応だけで十分に理解する事ができる。
この男が必要だったのは、自分の身体の中に流れているレイス家の血のみだったのだ。
決して父性に目覚めて、末娘であるヒストリアを愛しく想っての行動ではなかった。
自分がこの世に生を受けたのはこの男の不貞の末。
そのおかけで散々な目にあってきた。
不名誉で穢れた存在として生きてきた。
名前も変えられ、開拓地に送られた挙げ句に訓練兵団だ。
なのに今度はてのひらを返した様に抱きしめ、神になれと言われた。
ここまでくればヒストリアもいい加減に目が覚めた。
もう自分を殺す事はしない!
いい子でいようと自身を偽るのもヤメだ!!
自分の信じる道を選択するという確固たる意志が芽生えたヒストリアの瞳は、熱く燃え盛る炎が宿る。
「………!!」
目の前に父親が持っていた鞄が無造作に置かれているのを見つけたヒストリアをそれを手に取りエレンの元へとかけていく。
「……なっ!?オイッ…!!ヒストリア!?」
「ハハ…、ハハハッ!!!いいぞお前ら!!おもしれぇじゃねぇか!!」
ケニーはロッド・レイスによって自身の望みを絶たれてしまっていたため、この番狂わせな展開に笑いがこみ上げ止まらない様子だ。
「何やってんだよお前!?」
「エレン!ここから逃げるよ!!ここにはいちゃダメだ!!」
ヒストリアは鞄をあさり、鍵の束を見つけると、1つずつ順番にエレンを拘束している鎖の鍵穴に突っ込んだ。
「オイ!?お前がオレを食わねぇとダメなんだよ!!ちゃんと話聞いてたか?お前は選ばれた血統なんだぞ!?オレは違う!!オレは何も特別じゃない!!オレがこのまま生きてたらみんなが困るんだ!!早くオレを食ってくれ!!もう辛いんだよ生きて立って!!」