第64章 それぞれの決断に、変わる風向き
ヒストリアは家族の愛など知らない。
だからこそ、あの抱擁には何か特別な意味があるのかと思っていたのだが…
それは、ただ自分1人の勝手な願望だったのかもしれないと気付く。
「……………」
では、どうすればいい。
生まれてから15年。
自分を殺して生きてきた自分はどうすればいい?
このまま、父の望むような神になるのか?
それとも、他の何かを選択するのか?
自分は…クリスタ・レンズではなく、ヒストリア・レイスという1人の人間は、今大きな分岐点に立たされている。
後で間違いに気付いても戻ってやり直す事などできない。
ならどうすれば……
ヒストリアが息をするのも忘れる程に、必死に考えを巡らせていると、突如頭に現れた人物によってその迷いは一気にクリアになった。
ー「お前…胸張って生きろよ…」ー
それは、自分の1番の理解者だったユミルの姿。
クリスタ・レンズとして自身を偽って生きる事に、そして慎ましくいい子でいようとしていた自分に異を唱えてくれた唯一の人間だった。
もっと素直に、我儘に、胸張って生きろよ。
もう今はこの世にいるかも分からない大切な友人の言葉がヒストリアの脳内に響くと、一切の迷いや戸惑いが消滅し、身体が勝手に動いた。
ーパリンッ!!!ー
注射器の割れる音が洞窟内に無機質に響く。
それと同時にロッド・レイスは悪魔の様な形相に変わり、ヒストリアに掴みかかった。
「ヒストリアァァァ…!!!」
巨人になる事を拒否したヒストリアに怒りをあらわにしたが、ブチ切れているのはヒストリアも同じだった。
訓練兵団の対人格闘では一度も成功しなかった背負い投げで、実の父親を投げ飛ばしたヒストリアは感情のままに叫んだ。
ードガッ!!!ー
「何が神だ!!都合のいい逃げ道作って都合よく人を扇動して!!もう!これ以上…私を殺してたまるか!!」