第64章 それぞれの決断に、変わる風向き
懸命に訴えるヒストリアのその目は、かつてのレイス兄弟と同じであった。
ロッド・レイスも、弟のウーリ・レイスも、父親が継承した巨人の力をなぜ行使しないのかずっと疑問だった。
弟と共に人類の解放を何度も訴えたが、それが叶えられる事なくやがてその力が子へと託される時がきた。
継承は弟が買ってでたのだが…
巨人の力を受け継いだ弟の目をみてロッドはその意味を理解した。
「この世界を創り、この世の理を司る全知全能にして唯一の存在へと弟はなったのだ。それを何と呼ぶかわかるか?」
「え……?」
「神だ。我々はそれを、神と呼ぶ…人類の全ては神に委ねられている。私の使命は神をこの世界に呼び戻し、祈りを捧げる事にある。説明が足りなくて悪かった…しかし…我々に他の選択肢が残されているか?」
「お父さん……」
我々に他の選択肢など……
無い…
だろう。
レイス家純血の跡取りが全て死んでしまった以上、例え使用人との間にできたとはいえ、自分がその役割を担うしかない。
どの道エレンの中に王の力があってもその力は発揮できない。
だからといって、ヒストリア自身だって、歴代の継承者の様に初代王の思想に支配されてしまう。
「祈ってるよヒストリア…神は人類を導いてくれると…」
もう神を宿し、人類の安寧を祈る事しかできない。
それが自分の使命…
そして、お父さんが望む、私の姿……
「さぁ……」
「………………」
でも……
でも、本当にそうだろうか?
不貞の末に生まれた自分は、ずっと自分を殺して生きてきた。
母親には疎まれ続け、ついには名前までも変えられた。
その日からクリスタ・レンズとして、必死に慎ましく暮らしてきた。
それなのに…
それなのに…
クリスタ・レンズの次は…神になれ…だと?
あの時…
棺のフタをあけて抱きしめられた時、父親の愛に触れる事ができた様に感じたヒストリアだが……
この目の前にいる父親は…果たして本当に自分を愛してるのだろうか…