第9章 駈けだす想い
クレアにはわからなかった。
自分はリヴァイの班員ではない。
なのになぜこんなにもリヴァイは自分のことを気にかけてくれるのだろうか。
このままでは、その優しさに勘違いしてしまいそうになる。
自分を……特別に想ってくれてるのではないか…と。
昨日のことだって今でも鮮明に覚えている。
もう無理だと思ったところで思わずリヴァイの名前が口から溢れた。
名前を呼んだことはまったくの無意識であったが、あの時心の底から求めていたものはまぎれもなくリヴァイであった。
倉庫の扉が轟音と共に勢いよく開き、オレンジ色の夕陽を背に入ってきたリヴァイの姿が脳裏に焼き付いて離れない。
あの時、リヴァイが駆けつけてくれたことが、不謹慎だがクレアは嬉しかったのだ。
思い出すだけで胸の奥がズキンと痛み、切ない気持ちが込み上げてくる。
この気持ちの正体はいったいなんなのだ…
「………」
リヴァイに対する特別な想いがあふれ出し、思わず自分の胸をギュッと掴んでしまう。
「どうした。入れよ。」
あれこれ想いをめぐらせてるうちにあっという間に執務室まで到着してしまったようだ。
扉をしめると、突然リヴァイは両手でクレアの頬を優しく包んだ。
「へ、兵長?!」
「充血はねぇな……顔色も悪くはねぇな……おい、本当に無理はしてねぇだろうな。」
「は、はい!」
今さっきまでリヴァイのことを考えていたクレアは顔を真っ赤にしながら返事をした。
そしてリヴァイの口から告げられた今朝の業務命令は意外なものだった。
「…今朝は紅茶の特別講義だ。」
「…え?!な、なんでしょう。それは……」
「今朝の仕事はもう片付いた。お前がきたならやることは1つだ。俺が紅茶を淹れるからお前が採点しろ。」
「え?えぇぇ?私がですか?」
「あぁ、そうだ。お前がだ。お前が淹れた紅茶が1番うまかった。俺は紅茶好きだ。自分でもうまく淹れられるようにならないと、気がすまねぇからな。」
──お前が淹れた紅茶が1番うまい──
今はそんな言葉1つで簡単に心臓が跳ねてしまう。
お願い…鎮まれ心臓…
「わかりました…お任せください。」
クレアが答えると、リヴァイは満足げに湯を沸かし始めた。