第64章 それぞれの決断に、変わる風向き
「…そ、そんな事ができるなら…なぜ今こんな事に?!」
「それは…フリーダから奪われた巨人の力が、エレンの中にあるからだ。この力はレイス王家の血を引く者でないと真の力が発揮されない。彼がその器であり続ける限り、この地獄は続くのだ。」
「……………」
そう、全ての巨人を統治できる力を完全に使いこなせるのはレイスの血を引く者のみ。
つまり、エレンはただの器でしかなかった事を今のロッド・レイスの言葉で知った。
王政が今までしつこくエレンを狙っていたのは、エレン自身が持っている力では無く、父グリシャによって奪われたレイス家の巨人の力だったのだ。
「オイオイ…オイオイ…!それじゃあ、レイス家がエレンを食わなきゃ…真の王にはなれねぇのかよ?」
出ていった様に見せかけて話を盗み聞きしていたケニーが、ロッド・レイスの話に血相を変えて口を挟んできた。
「………そうだが?」
「じゃ、じゃあ、俺が巨人になってエレンを食っても意味ないのかよ…」
ケニーは王が“アッカーマン家”を根絶やしにしようとした理由を死ぬ間際の祖父から無理矢理聞き出していたため知っていた。
その王に復讐すべく、当時壁内の王であったロッド・レイスの弟であるウーリ・レイスのもとへ、若かりし頃のケニーは単独でその領地に忍び込み暗殺を試みたのだが…
ケニーは巨人の力を宿したウーリによって捕えられ、ロッド・レイスからも命を奪われかけてしまった。
しかし、ウーリはケニーがアッカーマン家の末裔だと気づくと、「君の恨みももっともだ…」と頭を垂れて謝罪をした。
こんな下賤の身である自分に頭を下げるウーリに心打たれてしまったケニー。気づけば壁内の治安維持に力をかす事を約束し中央第一憲兵に入団していた。
当初はアッカーマン家を根絶やしにしようとした王政への復讐と、アッカーマン家の復興を目指し、暴力と殺戮でこの世を変えようとしてきたケニー。
しかし、まったく正反対の思想でこの世を治めていたウーリに心を奪われていたケニーはいつしか“ウーリと対等な景色が見たい”と考えるようになっていた。