第64章 それぞれの決断に、変わる風向き
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「ようやく誰もいなくなったようだ。」
ケニーが見えなくなると、ロッド・レイスは小さくため息をつきながらカバンを出し中をゴソゴソと探り出した。
「待たせて悪かったヒストリア…」
そう言って取り出した小さな箱をパカリと開くとその中に入っていた物は注射器。
「………!!」
5年前のあの時、父グリシャが自分の腕に無理矢理投与した注射器と酷似しており、冷や汗がこめかみを伝う。
「彼に奪われた力は在るべき場所へ帰るのだろう。ヒストリア…お前の中へとな…」
「え……?」
ロッド・レイスの話によると、本物の王家であるレイス家が代々継承してきた巨人は100年前にこの3重の壁を築き、残されされた人類が平和に暮らせるように願ってきたのだという。
そしてその力は人々の心にまで影響を与え、人類の記憶をも改竄できたのだ。
しかし、この力の影響を受けなかった血族が存在した。
それが、アッカーマン家と東洋人だ。
だが、その血族も処刑をされたり黙秘をする事で、現在の末裔で100年以上前の歴史を知る者はいないらしい。
そのため、巨人がどこから現れたのか誰も知らない。
ただ1人、この巨人の力を継承した者を除いては…
レイス家の巨人にはこの世界の成り立ちとその経緯の歴史の記憶も継承される。
1人の人間に「力」と「記憶」を掌握させる事によってこの世界の生き字引とし、その者に人類の行く末を委ねてきたのだ。
この世界の謎を世に広めるも自由。
誰にも口外しないのも自由。
だが世に広めた者は誰一人としていなかった。
それはこの壁の世界を創りし初代王の思想を継承した証拠なのだそうだ。
「この状況だ…壁が破壊され、人類の多くの命が奪われ人同士で争い合うこの愚かな状況…それらもフリーダが巨人の力を使えば何も問題なかったのだ。この世の巨人を駆逐することも、できたであろうな…」