第64章 それぞれの決断に、変わる風向き
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「エレンが食われるだと?」
「あぁ、ライナー達の会話や行動からの推察にすぎないが、それがエレンから“巨人の力”を得る手段なのかもしれないんだ。続きは道中で話そう。」
ハンジは関所から飛び出してエルヴィンに話した内容をここにいた皆にも伝えると、続きは目的地に向かいながら話すと言い準備を始めた。
荷馬車や馬の準備が整うと、中央憲兵のヒゲ男を木に縛り付け、一行は出発した。
「これはエルヴィンから託されたレイス卿領地の調査報告書。本作戦の概要通りエレンとヒストリアがレイス家の手に渡るのなら、その行き先はレイス卿の領地と予想するのが普通だろうから、農民に扮した調査兵によってレイス卿領地の潜入調査を行っていたんだ。そしてその中身は、5年前にレイス家を襲ったある事件の詳細が大半を占めていた。」
「…………」
5年前。
このキーワードに皆が連想した事は1つだろう。
「レイス家は5人もの子宝に恵まれていたにも関わらず、余り余って領主が使用人との間にもう1人隠し子を作ってしまうほどだった。それがヒストリアだ。まぁこれ自体はよくある話だ。それ以外の所では領地の主としての評判は悪くなかった。特に長女のフリーダは気取らず明るい性格で、領民が皆口を揃えて彼女はこの領地の自慢だったと語ったほどだ。」
ここまではどこにでもある平和な領主と領民の話だ。
しかし、これから先がどんどんとおかしな話になっていく。
「しかし…ウォール・マリアが破壊された日の夜。悲劇は起きた。世間の混乱に乗じた盗賊の襲撃によって村にある唯一の礼拝堂が襲撃を受け、焼かれた挙げ句全壊したのだそうだ…その時運悪くもレイス家は一家全員でこの混乱の終息を願い祈りを捧げていた。そこを盗賊によって一家の主であるロッド・レイスを除く一家全員惨殺されてしまったんだと…」
「ロッド・レイスだけ…生き残ったんですね…?」
この時点で、疑問点がいくつも浮かんでくる。
だがまだ話には続きがありそうだ。