第64章 それぞれの決断に、変わる風向き
ジャンとコニーはマルロに抱きつき、アルミンはシトシトと涙を流し、サシャはヒッチに飛びついて嬉し泣きをしている。
彼らの様子から今日に至るまでの数日間、潰れてしまいそうな緊張感でいっぱいだった事が伺える。
現にクレアも、重くのしかかっていた不安や緊張が少しほぐれたのか深いため息が漏れてしまった。
「そんな…バカな…」
リヴァイから尋問を受けていた中央憲兵のヒゲ男はハンジの知らせを聞くと、力なく呟きうずくまってしまう。
「お前ら、いったい…どんな手を使った?」
騒いでる104期を尻目にリヴァイがハンジに問いかけると、ハンジは遠くを見つめながら答えた。
「変えたのは私達じゃないよ。1人1人の勇気ある選択が…この世界を変えたんだ…」
そう、調査兵団は勿論だが、リヴァイ達と手を組む事にしたディモ・リーブス。
真実を白日の下に晒す事を決めたフレーゲル。
そして自身の家族だけでなく、この壁内の全人類の明るい未来のために報道を決意したベルク新聞社。
最後に捨て身の“誤報”で一か八かの賭けにでたエルヴィンにピクシス司令。
そんな全ての人間の“選択”が1つなり、大きな成果を上げたのだ。
「勿論、クレアもね?!」
「……え?!」
「クレアのこの手は、沢山の仲間の命を守ったでしょ?…私には、クレアが辛い選択にも負けなかったって事くらい、分かるから…」
そう言って、小さなクレアの手を握ったハンジ。
ハンジは直接見たわけではないが、人間同士の殺し合いの中、戸惑いながらもこの手は勇敢に戦い、心を鬼にして襲いかかる中央憲兵の兵士の命を、覚悟を決めて切った事を十分に分かっていた。
その証拠にハンジにはクレアの姿が一回り大きくなった様に見えたのだ。
「ハンジさん……」
まさかの上司からの労いに目頭を熱くしてしまうクレア。
必死に我慢をしたが、緩くなってしまった涙腺からは嬉し涙が溢れて頬を伝った。