第9章 駈けだす想い
────────────────
──ガバッ!──
シンと静まりかえった部屋で目が覚めると、もう翌朝だった。
まさかのまさか、クレアは昨日ベッドにもぐりこんだあと、あのままぐっすりと眠ってしまったようだった。
布団をかぶったままフレイアと二言三言話したところまでは覚えてるが、そのあとはまったく記憶がない。
フレイアを起こさぬようにそうっとベッドからでると、身体は軽かった。
薬も効いてくれたようで、吐き気もすっかり抜けている。
音をたてぬように兵服に着替えると、ふとリヴァイにジャケットを返すのを忘れていたことに気がつく。
もう兵長は執務室に来る頃だろうか。
クレアはリヴァイのジャケットを洗濯しようか迷ったが、とりあえず返すことにした。
起きたときにフレイアが心配しないよう、机に置き手紙をすると、クレアは自室をでてリヴァイの執務室にむかった。
窓からうっすら日がさしこんできてる廊下を足音が立たぬよう歩いていると、女子棟の入り口近くにかすかだが人の気配を感じる。
こんな時間からいったい誰だ。
昨日のことが軽くフラッシュバックしてしまい、一気に心拍数が上がり拳を握る手に力が入ってしまった。
その気配はこちらに気づいたのか、コツコツと足音をならしながら近づいてきた。
体中に緊張が走り、足が動かない。
どうしよう…
────────────────
「はぁ………」
早朝、リヴァイの執務室にて、盛大なため息がもれた。
ため息をもらしたのは部屋の主リヴァイ。
リヴァイは昨夜、あまりよく眠れなかった。
なんとか眠りにはついたが、すぐに朝日が上り始めてまた目が覚めてしまい、結局眠るのを諦めて、執務室にきて仕事を片付けていた。まだクレアがくるにはいくらか早い時間だろう。
あらかた片付けたところで、頭の思考回路を支配したのはクレアのことだった。
昨日クレアが窮地だったあの時、自分の名前を呼ばれたことに、リヴァイは不謹慎ながらも悪い気はしてなかった。
本人は無意識だったのかもしれないが、無意識だったからこそ、心の底から求めていたものだったに違いない。
……都合よく解釈しているのは百も承知だ。
しかしそう思わずにはいられなかった。