第63章 敗北ばかりの調査兵団
「ニファさん…ご馳走するからケーキを食べに行こうって言ってくれたんです…あんなに優しかったニファさんが…どうして……」
クレアの両頬に悲しみの涙が伝う。
1人の時には流れなかった涙が、リヴァイの前では素直に流れた。
リヴァイの優しさを前にして、緊張がほぐれたのだろうか。流れる涙は一向に止まる気配がない。
「……前に、ペトラさんにも同じ事を言われていたんです。」
「……?」
「第57回壁外調査の日の朝でした。カラネス区に着いた時、私に言ってくれたんです…“もうすぐ誕生日だから何か奢ってあげる。何食べたいか考えておいて”って…調査兵は……こんな些細な約束もする事ができないんですね……ニファさん…同じハンジ班の班員として、これからもっと絆を深めていきたかったのに…もちろん、ケイジさんもパドリックさんもです…でもどうしてみんな…死んでしまうの…!?」
滝の様に流れる涙はボタボタと地面に落ち、乾いた大地を濡らしていく。
「…クレア……」
「それに…こんな弱い自分も嫌です…!!で…でも…兵長に…へいちょうに…優しい言葉をかけてもらったら…もう我慢できなくて…うっ…うぅ……」
クレアだって当然、このクーデターの意味も、中央第一憲兵との殺し合いの必要性もきちんと理解している。
理解できているからこそ、今朝の戦闘では果敢に戦い、数人の憲兵をあの世に葬る事ができたのだ。
クレアもアルミンに負けず劣らず聡い。
そして、誰よりも強い戦闘能力を持っている。
その賢さと強さで自身を保ってきたが、愛しいリヴァイの側ではそんな強がり、いとも簡単に崩れてしまったのだろう。
クレアは両手で顔を覆うと、肩を震わせながら声を上げて泣き出してしまった。
「うぅ……あぁ…ニファさん…ニファさん……」
クレアの想いが痛い程分かるリヴァイは、涙を流しながら震える小さな身体を抱きしめてやる事しかできなかった。