第63章 敗北ばかりの調査兵団
「うん…分かった。じゃあ私…行くね…」
自分では何もしてあげられなかった事を少し悔やむと、クレアは古びた馬小屋の中まで走って行った。
「兵長……、ミカサから呼ばれて来ました。大丈夫ですか?」
「あぁ…頼めるか?」
「はい。すぐに……」
クレアは医薬品のはいったバッグの中から必要な物を取り出すと、早速傷の具合を診た。
傷は左の頬と右肩。
あとはかすり傷だ。
縫合が必要なのは肩の傷だけだった。
これならすぐに終わるだろう。
「兵長、右肩の傷を縫いますね。申し訳ないのですが、今後何が起こるか分からないので…麻酔を節約したいです。麻酔無しでも大丈夫ですか?」
考えたくはないが、明日、明後日、もしかしたら今夜…誰かが大怪我をしない保証はどこにも無い。
リヴァイ以外のメンバーはまだ顔が割れていないが、今後スムーズに物資が入手できるかどうかは分からない。
薬品類の節約はできる場面ではした方がいい。
クレアはそう考えた様だ。
「あぁ、構わない。大丈夫だ…」
「ご、ご協力ありがとうございます。」
クレアは素直に礼を言い、患部を消毒しようとアルコールを湿らせた球体の脱脂綿をピンセットで摘むと、自身の左側の耳がゾクリと震えた。
「…痛くするなよ。」
「……!?」
そのあまりにも色っぽく響いた声はクレアの鼓膜を妖しく刺激をする。
いきなりの事でビクッと身体が跳ねてしまったが、当の本人はどこ吹く風だ。
「なんだ…どうかしたか?」
「な、なんでもありません!!」
サシャ達がいる手前、リヴァイの意地悪に何も反論できず、クレアは顔を真っ赤にさせながら手早く処置を始めるしかなかったのだが、突然背後から声をかけられた。
「…クレアさん。上手ですね……」
「え……?」
声をかけたのはサシャだった。