第63章 敗北ばかりの調査兵団
「何も言わないで大丈夫だから…落ち着いて。少し深呼吸してアルミン。過呼吸を起こしたら大変だわ…」
クレアもアルミンの隣に膝をつくと、優しく背中をさすった。
人間の心はとても脆い。
大きな正義の元に、勇敢に戦っていても、ほんの少し歯車が狂えば、人間の心などいとも簡単に崩壊する。
自分もそんな時があった。
アルミンもきっと、頭ではこのクーデターの意味を理解してはいたが、実際に人を殺して、頭と心のバランスが崩れてしまったのだろう。
今はとにかく落ち着かせなければ。
クレアが声をかけながら背中をさすっていると、消え入る様な声でアルミンが言った。
「クレアさんは…」
「え…?」
「クレアさんは大丈夫なんですか…?」
「……………」
きっと、人を殺してもこうはならなかったのか?と言いたいのだろうが、クレアは返事に困ってしまった。
勿論大丈夫ではない。
まだこの手には人間の肉と骨を切り裂いた感触が残っている。噴き出した血液の生臭さも覚えている。
だが、後悔はしていない。
でもこの言葉が、今のアルミンの励ましになる答えなのかどうか分からず、しどろもどろになってしまった。
「あ…す、すみません…僕、なんて事を…忘れてください…」
「アルミン…」
クレアの心境を察したのか、アルミンはそのまま俯いてしまった。
2人の間が重たい沈黙に包まれると、そんな空気を払拭するかの様にミカサがやってきた。
銃を抱えている。
辺りも暗くなってきたため、見張りに出てきたのだろう。
「アルミン…大丈夫…?あのクレアさん、私かわります。」
「え…?」
「リヴァイ兵長の怪我の縫合をお願いできますか?」
そういえば、リヴァイは中央憲兵との戦闘で負傷していた。
しかし負傷といっても大きな傷ではない。
あんな人数の奇襲を受けてもたった数カ所の傷を負っただけのリヴァイ。
相手が巨人だろうと人間だろうと、その強さは変わらぬ様だ。