第62章 レイス家の真実
「………え?」
「そんで女王になったら奴らをぶん殴ってやってこう言いな!“殴り返してみろ”ってな!」
「……はは、そりゃいい!なぁ?やってみろよヒストリア。兵長どんな顔するだろうな。」
「…………」
エレンはリーブスの提案に乗り気の様だったが、ヒストリアは俯いたまま返事はしなかった。
すると、リーブスはポケットから小さくカットされた刃物を取り出し、両手、両足、舌の裏、ヒストリアの拳の中に隠した。
「いざって時が来たら誰でもいいからエレンに傷を入れる…それは作戦が破綻した時か、レイス卿の元に辿り着き、その場を制圧する時だ。」
すると、予定よりだいぶ早く憲兵が到着した様だ。
リーブスはエレンに猿ぐつわを噛ませると、入ってくる憲兵に対して表向きの演技をしてみせた。
「よくやったなリーブス。」
入ってきたのは細身で長身の男だ。
「俺を覚えているか?クリスタ・レンズ。」
偽りだったかつての自分の名を呼ばれ振り返ると、そこには思い出したくも無い記憶が蘇る。
「………!?」
ヒストリアはこの男の顔に見覚えがあった。
見覚えも何も決して忘れる事はないだろう。
少し年をとった様にも見えるが、この男は5年前に、自分の母親を殺し、自身さえも殺そうとした男だ。
何故この男がここに…
ヒストリアはこの男に首をかっ切られて死んでいった母親の姿を思い出すと冷や汗をかきながら懸命に目をそらした。
だが、ここから事態は大急変する。
リーブス商会が調査兵団側についたと見破ったこの男に、会長であるリーブスが殺され、さらにはその部下も殺され、エレンとヒストリアは隠していた刃物を取り上げられ、第一憲兵が用意したと思われる棺の中に入れられてしまった。
運良くその存在がバレていなかったフレーゲル。
外へ用を足しに行っている間に父親が憲兵に殺されエレン達を連れて行かれてしまった。