第9章 駈けだす想い
「おいエルヴィン、ここは任せてもいいか?こいつを医務室まで連れて行く。」
クレアはポロポロと涙を流すだけで何も喋らない。いや、心が傷ついたショックで喋れないのだろう。
いつまでもこの現場に長居はさせないほうがいい。
「……わかった、頼んだぞ。他の兵士に見られないように気をつけてくれ。」
エルヴィンはリヴァイにクレアを任せることにした。
「待ってリヴァイ!私も一緒に行くから!」
ハンジはクレアのジャケットと破られたシャツと下着を拾うと、リヴァイについて行った。
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2人は人目につかないように注意をしながらクレアを医務室まで運ぶ。
ちょうど夕飯時ということもあって、他の兵士に見つかることなく医務室にたどり着くことができた。
──ガチャッ──
「!?リヴァイ兵長にハンジ分隊長!いったいどうされたんですか?」
年配の医師は驚きガタッと椅子から立ち上がった。
幹部クラスの兵士がいきなり2人も訪れたのだから無理もない。
「こいつが男の新兵2人に襲われた。診てやってくれ。」
「なんだって?!」
「彼女の名前はクレア・トート。私の班の新兵です。」
リヴァイはベッドにクレアを座らせると、医務室を出ていこうとする。
「リヴァイ!どこに行くの?」
「男の俺がいたら、話しにくいこともあるだろう……。こいつの部屋は12号室で間違いなかったな。着替えをもってくる。」
そう言うとリヴァイは医務室から出ていってしまった。
医師はクレアのカルテを開き、丸椅子に腰掛けると、クレアと目線を合わせるように診察を始めた。
「クレアくんだったね。君は医務室にくるのは初めてみたいだね。辛いかもしれないが、少し問診をさせてくれ。……2人の男に襲われたのは事実かな?」
「あ、わ、わたしが……うっ!……うぅ……」
何かを話そうとしたところで激しい吐き気がクレアを襲い、手を口に当てうつむいてしまう。
医師が慌ててバケツをもってくると、クレアは苦しそうに嘔吐してしまった。