第9章 駈けだす想い
「悪いのは全てアイツらだ。お前は気にしなくていい。」
クレアへの独占欲からくるものだろうか。
リヴァイは自分の大切な物を壊されたような気分になり、沸々と怒りがこみ上げる。
「兵長………」
蒼い瞳からポロポロとこぼれ落ちる涙を止めてやることができず、リヴァイはボサボサになったクレアの髪の毛をただただ撫でてやることしかできなかった。
何度も乱暴に掴まれたのだろう。
艷やかな蜂蜜色の髪が複雑にからまりクシャクシャになっている。
自分の知っている、美しくなめらかな感触の髪をこんな酷い状態にしてくれやがった。
ザズとリゲルに対して沸き起こった怒りと殺意を、リヴァイはすんでのところで抑えるのに必死だった。
もちろんこの兵団内で人殺しをする気は毛頭ないが、ひと思いに殺すようなことをしてしまっては何の制裁にもならない。
北の僻地の強制労働で生涯軟禁でもされやがれ。
そうしているうちに、倉庫の外が少し騒がしくなる。
きっとハンジ達だろう。
ハンジはエルヴィンとモブリットを連れて走ってきた。
「あ!クレア、やっぱりここに…………え!」
ハンジは、倉庫の中の惨状に言葉を失う。
「クレア!大丈夫?ケガは?ケガはしてない?」
「ハ、ハンジさん………団長………モブリットさん……」
かけよりクレアを抱き締める。
「クレア……」
モブリットはこの酷い有様に言葉を失っていた。
「クレア!大丈夫か?!この2人は新兵のザズ・ライアンとリゲル・クライストで間違いないな…壁外調査前に…とんでもない事をしてくれたな!」
まさかの事態にエルヴィンの語気も強く、いつもの爽やかな感じはまったく伺えない。
エルヴィンは拘束具を持ってきていたが、1つしかない。
2人から襲われているとは思っていなかったのだ。
リゲルの両手首に拘束具をつけると、ザズには倉庫にあるロープを使って両手首を縛るようモブリットに指示をした。
クレアはリヴァイのジャケットを羽織ってはいるが、その下は裸だ。下着もつけていない。
ここに長居させるわけにはいかないと判断し、リヴァイはハンジからクレアを引きはがすと、横抱きに抱き上げた。