第62章 レイス家の真実
ハンジはサネスの嫌味をサラッと言い返すと、クレアに拷問で負傷した箇所の手当を命じた。
爪の剥がれた跡に薬を塗り、折れ曲がった鼻も矯正して包帯で固定する。
サネスに使える医療品の類は最低限しか用意がない。
当たり前だが、質の良い鎮痛剤も抗生剤も全て調査兵団用だ。
だが、ひとまずこれで大丈夫だろう。
クレアが処置を終えると、ハンジは約束通りベッドを用意してやると言い、ロープの拘束を解いて部屋から出してやった。
「地下牢のベッドだからね。お偉いさんがいつも使ってる高級ベッドとは雲泥の差だと思うけど…まぁ木のイスよりはマシでしょ!」
そう言いながら牢の扉を開けてガシャンと閉めると、サネスは自身を裏切ったラルフと再開した。
「サネス!何故ここに?!お前…大丈夫か?」
ラルフはサネスの姿を見て本気でその身を心配したが、サネス本人は怒りの感情をその胸の内に滾らせていた。
「…………」
「お前…まさか…こいつらに喋っちゃいねぇよな?俺達の王への忠誠心は、こんな奴らに屈するわけないはずだろ?」
ただ黙っているサネスに不穏を感じたのか、サネスが真実を問いかけるが、サネスからして見れば、どの口が言っていると更に怒りは増すばかりだ。
ついには負の感情が抑えきれなくなり、気づけばサネスはラルフの首を両手で思い切り締め上げていた。
「オ…?オイ!?サネス!?」
「お前の声は!!もう!聞きたくない!今までよくも俺を!裏切ってくれたな!!?」
「……ッ!?〜〜〜〜〜!?」
力をいれて締めれば爪の無い指先が、自身の心臓の拍動に合わせてズキズキと痛みだすが、今はそれどころではない。
長年相棒としてやってきたラルフ。
共に王に仕えてきたラルフ。
それが爪の1枚で何もかも白状してしまい、自身を暑苦しい奴だと罵った。
こうでもしなくては死んでも死にきれない。
そんな想いで力を込めるが、ラルフからしてみれば、サネスの行動の意味がまったく分からない。