第62章 レイス家の真実
「はぁ…はぁ…間に合うかしら…」
クレアが駆け込む様にやってきたのはキッチンだった。
確かあったはずだとシンクの下の扉をあけると、目的の物はすぐに見つかった。
ガチャガチャとせわしなく作業を済ませると、クレアはとある物を手に、再び走り出した。
「まっ、待って!!ニファさーーん!!」
「え?クレア?どうしたの?」
馬に跨り今まさに発進させる所だったニファに大声で声をかけると、驚いたニファは馬からおりてクレアの方を見た。
「はぁ…よ、よかった…間に合った…ごめんなさい、ニファさん、呼び止めてしまって…!」
「私は大丈夫だけど…どうしたの?何かあったの?」
ただならぬ顔で追いかけてきたクレアに、何か緊急事態でも起こったのかと心配そうな顔をしたニファだったが、クレアはニファの顔を見ると安心したようにとある物をニファの手に握らせた。
「あの…これを……」
「え?…これ、なに?」
ニファは自分の手の中にある細長い瓶と、クレアの顔を交互に見ながら問いかける。
「ニファさん…もう暗いので、道中どうかお気をつけください。これは…子供だましかもしれませんがお守りです。」
「お守り…?」
「はい…この瓶の中にはキッチンにあった料理酒に塩と唐辛子を入れました。治安も悪くなっていますので、中央憲兵だけではなく、拐(かどわ)かしや強盗の類にも気をつけて下さい…もし、身の危険を感じたら相手の顔に投げつけて逃げて下さい。多少の時間稼ぎにはなるかと思いますので…」
わざわざ自分の身を案じて用意してくれたクレアの気遣いに、ニファは笑顔で礼を言うと、ポンポンとその頭を撫でた。
「私のために、作ってくれたのね?ありがとう!嬉しい…って、ご、ごめん!!なんか実家にいる弟妹を思い出しちゃって!!」
やってしまったとばかりにニファは手を引っ込めた。