第62章 レイス家の真実
「数えきれないな…1人につき何枚爪が生えてると思ってんだ…爪だって皮だって…何枚も…剥がさしたさ。そいつに嫁がいようが、生まれたばかりのガキがいようが…関係ねぇ…この壁の平和を守るためだからな…」
「どういう事だ…」
「このせめぇ壁の中で…なぜ…今まで戦争が起きなかったかわかるか?お前らが…当たり前の様に享受しているこの…平和は…誰が築き上げていたのか知ってたか?俺達第一憲兵がこの汚ぇ手で守ってきたんだよ!火種がどこかで生まれる度に1つずつ消していった。」
「……!?」
「下手に利口な教師から…王を脅かす様な銃を作ってやがったじじい共も…空を飛ぼうとした馬鹿な夫婦も…田舎の牧場にいた売女も…!全部俺達が消したから…人類は今までやってこれた!!そらもこれも全部俺達第一憲兵のおかげだろうが!!感謝しろよ!!」
サネスの言う通り、この壁の中で戦争や内乱が起こった歴史は一度もない。
狭い壁の中といえど、人口はそれなりの数だ。
その全ての火種を第一中央憲兵が消してきたとなると、サネスがどれだけ人間の爪を剥がしてきたか…想像するのは容易いだろう。
「やっぱりか…技術の発展からこの世界を守ってくれたんだね。本当にありがとう。」
「…調査兵団(お前ら)こそ初期の段階で消されるべきだった…勝手に壁の外に出て死ぬもんだと思われていたんだろうが…今じゃこの壁の平和を脅かす1番の病原菌だ。」
「そ、そんな…」
確かに戦争が起こった歴史はない。
だがそれは、裏で操作された第一中央憲兵の殺戮により成り立っていたものだった。
そんな平和を…果たして平和と呼べるのだろうか。
クレアはまったくもってそうは思わなかったが、サネスは自分のしてきた正義を変えるつもりはないらしい。
調査兵団を病原菌呼ばわりしているあたり、そう判断できてしまう。
第一中央憲兵団…
同じ兵士だというのに、調査兵団とはまったく真逆の信念に、クレアは驚き以上に不快感の様な感覚が全身を巡った。