第9章 駈けだす想い
「うん…もう、あそこしかなさそうだ…」
ハンジも何故気づかなかったのだろうかと、歯を食いしばりながら予備馬の厩舎の方角を睨んだ。
「もうあそこしかねぇ!ハンジ、お前はエルヴィンを呼んでこい。俺が先に行く!」
「わかった!私もすぐにいくから!」
2人は一旦別行動になった。
予備馬の厩舎は兵舎から少し離れた丘にある。
なだらかな坂をリヴァイは全速力で走った。
何故、何故気づかなかったのだ。
人類最強の兵士としての勘が、クレアは絶対そこにいると煩く騒ぎ立てる。
息を切らしながら丘を登りきり、厩舎を覗くがそこには飼い葉を食む音が耳に入ってくるのみで、変わった様子はない。
だとするとやはり、クレアは予備馬の馬具倉庫だ。
リヴァイは倉庫にむかってまた走る。
倉庫の前までたどり着くと、ほんの一瞬だが、リヴァイのよく知る花の香りが鼻をかすめた。
──キンモクセイ──
クレアがここを通ったのはだいぶ前だ。ほんのかすかな香りの粒子が漂っていただけであったが、脳に深く記憶付けられたこの香りを、リヴァイは見逃すはずがなかった。
リヴァイは確信する。
クレアはこの中にいる。と。
錆びついた扉に手をかけると、中から耳を疑うような会話が聞こえてきた。
「(そろそろ、本番して終わりにしねぇと怪しまれるぞ…)」
「(あぁ…そうだな…)」
いったい何を言ってやがる…
重い扉をあけるべく、力を入れた瞬間
「……リ…ヴァイ……兵長…」
か細く、かすれた声で自分の名前を呼ばれた事で、リヴァイはクレアが最悪の状況でこの中にいることを理解し、力任せに扉をスライドさせた。
──ガラガラガラガラッドンッ!!!──
一瞬にして倉庫内にオレンジ色の夕陽がさしこみ、中の様子がクリアになる。
そこにいたのは、新兵とみられる男2人と、両手首を拘束され、上半身裸で、地面に押しつけられているクレアの姿であった。
1人は手にナイフを持ってクレアの首筋にあてている。
「おい!お前ら、何してやがる!」
「クソッ、来るのが早すぎるじゃねぇか…」
ザズとリゲルの顔色がみるみると青ざめていく。