第61章 104期との距離
リーブス商会は絶体絶命の大ピンチだ。
だがこんな状況でも、万に一つの可能性を賭けた選択肢を提示したリヴァイに、少なからず心を動かされたリーブス。
こんな気持ちにさせる人間に最後に会ったのはいったいいつだっただろうか。
もう思い出す事もできぬ程昔である事は確かだ。
「で、どうするんだ。」
「は…素人が……条件を全て聞かずに契約するバカがいるか…」
「おっと失礼した。3つ目だ。今後リーブス商会が入手した珍しい食材、嗜好品等は優先的に調査兵団に回せ、特に紅茶とかな。」
「す、素晴らしい!!素晴らしい条件じゃないないですか会長!!」
「お、おい!サシャ!!」
3つ目の条件がサシャの胸に刺さったのか、急に歓喜の声を上げ興奮しだした。
“嗜好品”、“優先的に”、この辺りのキーワードがツボに入ったのだろう。
「あんた、商人よりも欲が深いらしい、気に入ったよ。」
「あんたは頭がいい。」
リーブスは小さく溜息をつくと、右手をリヴァイに差し出した。
商会を率いるボスとして、部下も、その家族も、そしてこの街の住民も捨てる事などできない。
それなら、万に一つの確率でも戦ってみようではないか。
いくつもの修羅場を生き残ってきたリヴァイとならやれそうな気がする。
この老いぼれ、大人しく死んではやらんぞ。
リーブスは腹を括ると、そう心の中で呟いた。
「「交渉成立だ」」
そして、2人はかたく握手を交わした。
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無事に交渉が成立すると、調査兵団一行は一旦馬を取りに、エレンとヒストリアを隠していた潜伏場所へと戻っていった。
昨夜は山の中を歩き通しな上に仮眠しかとっていなかったため、今夜は眠れる体制と取らせてやらないとまずいだろう。
今晩は潜伏場所で一夜を過ごす事にした様だが、だからといって一晩ぐっすり眠れるわけではない。
当分の間は見張り当番無しでは夜は過ごせない。
リヴァイは皆に早目に床につくよう命じると、すぐにシンと静かになった。