第61章 104期との距離
「な……?!戦争を始めようって言ってんのか?!」
「2つ、リーブス商会は調査兵団を心の底から信用する事。」
「……信用…だと?」
祖父の代から商人をしてきたが、心の底から信用した人間など今までいただろうか。
少なくとも自分はそういった世界で生きてきた。
そんな事、金を貰ったってできるかよ。
「“信用”だなんて…そりゃ、俺ら商人の世界じゃ冗談を言う時にしか使わねぇ言葉だぞ?」
「商人?俺は今あんたと…ディモ・リーブスと話をしている。あんたの生き方を聞いてるんだ。あんたはどんな奴だ?」
「…………」
「あんたの部下と街の住民を死なせて敗北するか、人類最高の権力を相手に戦うか…どうせ正解なんてありゃしねぇよ。あんたの好きな方を選べ。」
好きな方を選んだ所で、素直に死ぬか、足掻いて死ぬかのどちらかだ。
だが、戦えば万に一つの確率かもしれないが、商会もここの住民の命も失わなくて済む。
だがそれを実行するには“大変”だなんて言葉では片付けられない程の苦難が待っているだろう。
しかし、この冷たい目をした男は無茶苦茶な事を言いながらも部下やその家族、そしてここでその日その日を食いつないでいる住民の命まで助けようとする選択肢を自分に提示してきた。
中央憲兵のヤツらはどうだったか?
ー命令だ、背けば死ー
この1択だ。
そう考えれば、中央憲兵からの命令をしくじってしまった今、生き残る手段はもう調査兵団と手を組む事しかない。
「…旦那、参考までに聞かせてくれや。お前さんはどんな生き方をしてるんだ。」
「あ?俺か?…どうだろうな、あんたに聞いといてなんだが…よくわからねぇ。次から次にクソみたいな事が起こる環境で生きてきたからな。ただ1つだけ言える事は……俺は、自分から逃げるという選択をした事は一度もない。」
「そうかよ…」
無表情で語るその裏にはきっと、自分では創造すらできない経験をしてきたのだろう。
そうでなけれは、調査兵団の兵士長などとてもじゃないが務まらない。