第61章 104期との距離
一行がやってきたのはトロスト区の門前だった。
「ここは俺達の街だぞ?トロスト区門前、いや、元門前か。もしくは人類極南の最前線…あの世とこの世の境目。おっかねぇが稼げる…いい街だった。」
「俺達はこう呼んでいる、人類が初めて巨人に勝利した場所。そして…人類の無力さを証明する場所。巨人によって空けられた穴を巨人の力で塞いだ。色々試したが結局人類じゃ到底及ばない話だったわけだ。」
この場所は商人にとっても兵士にとっても色々な意味で特別な場所だ。
「まぁ勿論巨人の力だけで塞いだわけじゃない、数多くの兵士が命を投げ出した。その他にも幾重にも重なる奇跡の連続であんたの街は今ここにかろうじてある。その奇跡がエレンだ。あんたが連れ去ろうとしたもんはそれだ。」
「ふっ、俺はここに説教されに来たらしい。勘弁してくれねぇか旦那?老いぼれの身体には少し応える。」
“なんてモノを盗もうとしてくれたんだ”という風に聞こえたのだろうか。
自分より若い男から説教されるとは落ちぶれたものだと、男は煙草をふかしながら笑って見せた。
「…そうだな、やめておこう、老人が怒られてんのは見てて辛い。中央憲兵との交渉の内容と、あんたらの目的が知りたい。」
雇われたと言う事はそれに対して報酬、対価があるはずだ。
まずはそこから聞き出さなければ話は進まない。
リヴァイは男の隣に腰掛けると返ってきた解答は予想していたものと少し違った。
「交渉?そんなものはない…命令され従った。俺らの目的は“全てを失わないために命令に従う”だ。しかし夜襲も拉致も失敗した。俺らリーブス商会は全ての財産を何らかの罪状で王政に没収され従業員とその家族は路頭に迷う。おまけに俺と数人の部下は口封じのため…何らかの事故に遭って死ぬだろう…」
「…そうか。」
中央憲兵とリーブス商会の間に交渉などなく、ただの一方的な命令だけしかなかった。