第60章 新・リヴァイ班、始動
「クレア、見たのか?覚えているか?ニックの爪が何枚剥がされていたか。」
「は、はい。覚えております。ニック司祭は両手両足、全ての爪を剥がされていました。そして顔は腫れ上がり、床には折れた歯が転がっていました…私も見れたのは一瞬でしたが、頭蓋骨が陥没していたなどの致命傷の様な外傷は確認できなかったので、ニック司祭の死因は…おそらくは時間をかけての撲殺死かと思われます…」
「ほう…そうか。喋る奴は1枚で喋るが…喋らねぇ奴は何枚剥がしたって同じだ。ニック司祭…あいつはバカだったと思うが、自分の信じるものを最後まで曲げる事はなかったらしいな…」
「………うん。」
小さく頷いたハンジは、壁の中の巨人の秘密を吐かせようとした時の事を思い出す。
“か…み…さま…”
ニックはどんな拷問を受けても、自身の信じる神に背く事は死んでもしなかった事になる。
「ニックが口を割らなかった可能性が高いとなれば、中央の“何か”は調査兵団がレイス家を注視してるって所まで警戒してない…かもしれん。」
「…うん、私も…ニックは口を割らなかったと思う……」
「そうなれば、今後の方針は2つだ。背後から刺される前に外へ行くか、背後から刺す奴を駆除して外へ行くか…お前はどっちだハンジ?刺される前に行く方か?」
「………………」
ハンジの脳裏にはずっと血を流しながら倒れているニックの姿が離れない。
即死でないのなら、ニックは長時間かけて苦しみながら殺された事になる。
それでも自身の信じる神に背くマネはしなかった。
この死を無駄には決してできない。
そう、絶対に無駄にしてはいけない。
グッと握る拳に力をこめると、ハンジははっきりとした口調でリヴァイの問いに答える。
「…両方だ!!どっちも同時に進めよう!!」
「やっと正気に戻ったなクソメガネ。…エルヴィンもきっと同じ事を言っただろうな。そしたら実験は早速明日から始める。文句はねぇな。」
「あぁ、分かった。場所は私が決めるよ…」
ハンジの心にしつこくこびりついていた罪悪感は、闘志へとかわり、その表情はいつものハンジに戻っていた。