第9章 駈けだす想い
フレイアとエルドだった。
2人はなにやら照れくさそうに話をしている。
訓練が始まってしまっては話をするチャンスもきっかけもなくなってしまう。
フレイアは思い切って朝一にエルドを探して、昨日の返事をしたのだろう。
2人とも壁外調査前とは思えないほどの柔らかい表情をしている。
遠目から見ているクレアでさえも、2人の幸せな空気を感じとることができていた。
フレイアはクレアより1つ年下だが、スラッとした細身の体型で、身長もクレアより高い。
サラサラの黒髪ショートヘアが美しく、見た目はクレアよりずいぶん年上に見える。
そのためか、エルドど並んでいても、そこまで年の差が感じられない。
クレアはそんな大人っぽいフレイアが心底羨ましかった。
「はぁ…フレイアはスタイルもいいし、美人でいいなぁ…」
がっくしと肩を落とすとデイジーは優しくクレアの頬にキスをして慰めた。
──────夕刻──────
今日も1日の訓練を終えたクレアは、いつもなら兵舎に戻っている時刻だが、愛馬デイジーの馬具に不備がないか点検しようと、まだ厩舎に残っていた。
皆ゾロゾロと兵舎に戻っていき、段々と厩舎のまわりも静かになっていく。
静かになった厩舎から聞こえてくるのは、兵士達の愛馬が飼い葉を喰む音。
「フフフ、デイジーおいしい?お腹いっぱい食べてね。」
デイジーとの会話を楽しんでいると、ふいに厩舎の入り口から声をかけられた。
「クレア?!」
声のした方をむくと、そこにいたのは今日一緒に訓練をした新兵だった。
名前は確か…
「あ、ここにいたのか。ハンジ分隊長がお前のこと探してたぞ。予備馬の馬具倉庫まで来てくれって。」
名前を思い出す前に用件を告げられてしまう。
「ハンジさんが?わかった、ありがとう。これ片付けたらすぐ行くわ。」
声をかけた新兵は用件を告げるとすぐに行ってしまった。
名前は確か、ザズ、だったか。
クレアは急いで、鞍と頭絡をもって厩舎をでようとすると、入り口で誰かと盛大にぶつかってしまった。
──ドンッ!──
「「きゃっ!!」」