第59章 奇行種、奔走
「そうか…強盗に遭ったのか…ニック…怖かっただろう、かわいそうに…でも彼は盗まれる物なんて持ってたかな…」
「被害者の地位を考えればこんな事になるのもおかしくない。ウォール教の神具に使われてる様な鉄は高価な物だと知られているからな。」
「え…?!ニックは…ウォール教の関係者だったのですか?」
「………何を言っている。ニック司祭をこの施設に入れたのはお前ら調査兵団だろう?」
「はい…彼をここに招いたのは私です。彼とは個人的な友人でした。今回の騒動で住む場所を失っていたのです。」
態度を一変させたハンジに気が緩んだのか、“偉いとこの兵士”と上げられていい気になったのか…
いともあっさり口を滑らせた憲兵。
この様子だと、ハンジがカマをかけた事にも気づいて無い様だ。
「………」
年を食ってる割には単純な奴だなと、クレアは心の中でため息をついた。
「…兵舎の私的な利用は良くない事ですが、次に住む当てが見つかるまで、この部屋を使える様に私が手配しました。しかし…私の知る彼は椅子職人だったはずです。少なくともこの部屋の使用許可の申請書類には私がそう記しました。」
ここまで言っても自分が口を滑らした事にまだ気付かない。どこまで馬鹿なのだ。
「彼は手荷物1つない状態で逃げ延びて来たのです。少なくとも…ここに来た時はウォール教に関する様な衣服も神具も持ち合わさていませんでした。私はニックからウォール教に関する話など聞いた事がありませんし…何よりニックは巨人に追われたショックからかこの部屋から出る事さえできない状態でした…この地の者がニックを詳しく知る事なんてできないはずなのに……」
「貴様……」
「でも、私はニックの全てを知ってるわけではなかったのでしょう…」
想いが強くなりメリメリと握る手に力を込めるハンジ。
「オイ…離せ……」
「あぁすいません!つい強く握ってしまいました。」
両手を上げて実にわざとらしく謝罪をするハンジだが、それが演技だと何故この2人は気付かない。
クレアは呆れてため息すら出てこなくなった。