第59章 奇行種、奔走
首を振るクレアを見てハンジも強盗殺人ではないと思った様だ。
「そんなわけ無いだろ…強盗が盗みを働くためにわざわざ兵の施設を選んだっていうのか?」
「…なんだと?」
「彼の指を見たか?何で爪が剥がされているんだ?!何度も殴られた様な顔をしてたぞ!!侵入経路は?死因と凶器は何だ?それに…それに、ニックが殺されたという通報はいったい誰から受けたんだ?」
「あっ?そんなの市民からの通報に決まってるだろ?」
「嘘だ!この建物から塀まで距離もある!そんなわけあるか!?」
確かにここは調査兵団の兵舎に隣接された“離れ”だ。
強盗に入られても物音などは兵士の自室までは聞こえない。
だからと言って、殺害された時刻を考えるとこのあたりの道はほぼ無人になるし、建物から塀まで距離もある。
物音で通報したなんて、作り話もいいところだ。
憲兵団は、ニックの足取りを追ってここまで侵入してきたのだ。
そう考える方が自然だ。
「なんだと偉そうに!お前の所属はどこだ?!第四分隊……」
「…なにっ?!」
「ハ、ハンジさん…!!」
だが、ハンジの反論が図星だったのだろう。
逆上した憲兵はハンジの胸ぐらを掴みジャケットに記されている階級を無理矢理読み上げたのだが……
ーガッ!!ー
「第四分隊分隊長ハンジ・ゾエと第四分隊副長モブリット・バーナーです。そこにいるのは我々の部下でクレア・トート、階級はありません。」
ハンジに乱暴を働いた横柄な憲兵に怒りをあらわにしたモブリットが間に入り、胸ぐらを掴んでいた手を強制的に離した。
「組織がちっぽけだと大層な階級も虚しく響くもんだな。」
「おい調査兵団、お前らの仕事はどうした?」
「は?」
「壁の外へ人数を減らしに行ってない間は壁の中で次に人数を減らす作戦を立てるのがお前らの仕事だろ?いっそ壁の外に住んでみたらどうだ?お前らに食われる税が省かれて助かる。」