第59章 奇行種、奔走
すると、確かにニックを匿っていた部屋の前に、銃をさげた憲兵と思われる兵士が2人立っていた。
ハンジはクレアの手を握ったまま強引に部屋の中を覗くと、2人の憲兵の間から息絶えているだろう変わり果てたニックの姿が目に飛び込んできた。
「ニック!!どうして…!!」
「オイ!現場を荒らす気か?調査兵!!勝手に近づくな!!」
「!?入れてくれ!彼は友達なんだ!」
「ダメだ!!これは我々の仕事だ!」
そこにいた憲兵2人は目の前にいたハンジを制止するが、その隙をつき身体の小さなクレアがスッと中へと飛び込んだ。
「オ、オイ!!お前!!」
「クレア…!?」
「うっ………」
倒れているニックの全身を見ると、クレアは瞬時にその映像を脳内へ送り込み分析する。
両手両足全ての爪が剥がされている。
鋭利な刃物による刺し傷はない。
首の向きもおかしくない。
見える限り、頭部の凹みもない。
そして顔は血だらけで腫れ上がっていて数本の歯が飛び散っている。
おそらく即死ではなく時間をかけた撲殺死だろう。
「オイ!現場を荒らすなと聞こえなかったのか?!」
「あっ…!!」
すると、中にいた憲兵の1人がクレアの胸ぐらを掴み部屋の外に放り投げた。
ードンッ!ー
「キャアッ!!」
「クレア!!な、何をするんだ!!」
廊下の壁に思い切り背部を打ってしまい悲鳴を上げるクレア。
組織は違うが同じ兵士だ。
この対応はあんまりだとハンジの怒りも頂点だ。
「こっちの命令に背いたんだ。当然の対応だ!フン…まぁいい…少しだけ教えてやろう。この部屋の荷物は全て奪われていた。強盗殺人事件だ。知っての通り最近この手の事件が頻発していて休む暇もない!ほら、これでいいだろ!納得したならもう行け!邪魔だ!」
強盗殺人事件…?
違う…
強盗殺人なら鈍器でも刃物でも、最初の一撃で殺すはずだ。
クレアは尻をついたままブンブンと首を横に振った。