第59章 奇行種、奔走
そのため、数多くの巨人を討伐してきたリヴァイにとってはだいぶ気分の重くなる話だった様だ。
「……か、確証はないと言っただろ?」
ハンジがリヴァイにこれはあくまで“仮説”だとフォローするが、これだけの材料が揃っているのだ。
おそらくハズレる事はないだろう。
「もしそうだとすれば…何じゃろうな。普通の巨人とエレンのような巨人との違いは肉体が完全に同化しない所にあるのかのう……」
壁内にはびこる巨人に、エレンの様な人間の姿にも戻れる巨人。
ここの謎はまだ深く残ったままだ。
「なぁエルヴィン……おい、エルヴィ……」
「……………」
皆が険しい顔で今回の調査報告を聞いていた中、ただ1人だけは違っていた。
「お前、何を…笑っていやがる。」
「!?…あぁ…なんでも無いさ…」
「気持ちの悪い奴め…」
エルヴィンはリヴァイに言われるまで自分が笑っている事に気づいていなかった。
“気持ち悪い奴め”と吐き捨てられチクリと胸が痛んだが、こんな話をしていて笑っていたのだから仕方ないだろう。
エルヴィンには、何が何でも巨人の謎を解き、壁の秘密を暴きたいという野望がある。
それは、幼い頃に亡くした父親へした質問、そして父親のたてた仮説の答え合わせをする事だ。
その為に自分は調査兵団の団長になり、片腕を失ったこの状況でも我を失わずに奮起しようとしている。
だが、ハンジの持ち帰ったラガコ村の調査報告。
“巨人の正体が人間かもしれない”
という話は、今は亡き父の遺した仮説に一歩近づく内容で思わず口元が緩んでしまったのだ。
今まで出した数多くの犠牲を悲しむ事よりも、自分の真っ暗な野望の中にさし込んだ一筋の光に笑みをこぼす。
リヴァイのいった通り“気持ちの悪い奴”なのかもしれない。
「…子供の頃からよくそう言われたよ……」
そんなリヴァイに対してエルヴィンは少し自虐的に答えた。