第59章 奇行種、奔走
「失礼します。」
ノックをして入ると、医師はもう退室していて、入れ替わる様に部屋にいたのは駐屯兵団のトップ、ドット・ピクシスとその側近アンカ・ラインベルガーだった。
「あっ、ピクシス司令!いらしてたのですね!失礼致しました。」
「いや、大丈夫だ。気を遣わないでくれ、君がクレア・トート君…だね?」
「え…?」
こんな末端兵士の自分の名を、駐屯兵団のトップであるピクシスが何故フルネームで知っているのかと一瞬疑問に思ったのだが、答えは単純だった。
「審議所で遠目から見ておったが、近くで見ると噂通りにキレイじゃな…兵士にしておくのは勿体無いのぉ。」
そう、エレンが巨人化した時にその秘密を知る者ではないのかと疑われ、クレアはザックレーの前で審議にかけられていた。
その時に顔と名前を覚えられていたのだ。
「ピクシス司令!!クレアさんは優秀な戦績をお持ちの有能な調査兵です。それは失礼な発言にあたるのでお控え下さい!」
クレアの姿を見て鼻の下を伸ばしたピクシスに、アンカの辛辣な突っ込みが入った。
「アンカさん…」
「ごめんなさいね、例の審議の後、あなたの事が駐屯兵団の中でちょっと噂になった時期があったの。」
「え?そうなんですか?」
「調査兵団に見た事もない美人がいるってね。そしたら司令がもう一度近くで見たいと言い出して…」
「何だよ…ヤケに到着が早いと思ったらそういう理由だったのかよ…」
リヴァイは眉間にシワを寄せて心底不機嫌そうにピクシスを睨んだ。
「バレたか…まぁ老いぼれの楽しみなんざ、酒か美女を拝むくらいだろう。老い先短いじじぃの楽しみを奪わんでくれ。」
「ハッ…そんだけよく喋るじじいがそんな簡単に死ぬかよ。そう言ってるヤツほど長生きだから厄介な世の中だ…」
そう言うと脚を組み直してリヴァイは盛大な溜息をついた。