第9章 駈けだす想い
「へ、へいちょ…?」
いきなり後ろに立たれて思わず声が上ずってしまう。
「昨日も思ったが、お前はどうやって紅茶を淹れるんだ?何か特別なやり方があるのか?」
「い、淹れ方ですか…?」
リヴァイは茶葉にはこだわり、高くても良い物を買っていたが、淹れ方までは特にこだわっていなかった。
それでもじゅうぶんに美味しかったからだ。
だが、昨日クレアが淹れた紅茶は、同じ茶葉でいれているのにもかかわらず、より深く香り、より濃厚な味わいがあった。
紅茶好きなリヴァイが興味を示さない訳がない。
「おい、なんとか言えよ。まさか秘密なんてことはねぇだろうな。」
焦れたリヴァイが更に顔をクレアに近づけた。
「そ、そんなことはないです。紅茶をいれるのにはいくつかポイントがあり、それさえできれば誰でも美味しく淹れることができます。」
「ほう…なら早く教えろ。」
「ま、まず、お湯は多めに沸かしてしっかりボコボコするまで沸騰させてください。湧いたらポットとカップにお湯を入れて温めます。茶葉の用意ができたらポットのお湯を一度捨てて、茶葉の上から勢いよくお湯を注ぎます。注いだあとはしっかり蒸らします。ポットの上に厚めの布をかけておくとお湯が冷めないのでおすすめです。…あとはカップに注ぐだけです。」
クレアは実際にやって見せながら説明をした。
こんな行程をふんでいたために昨日はでてくるのが遅く感じたのかと、リヴァイは妙に納得がいった様だ。
「なるほどな、了解した。今日はお前の分も淹れろ。」
そういうと、食器棚からもうワンセットカップをだし、トレーに乗せた。
「あ、ありがとうございます。」
クレアは茶こしを使い、丁寧に紅茶を注ぐと、最後の一滴をリヴァイのカップに入れて見せる。
「紅茶は最後の一滴が1番美味しいと言われていて、“金のしずく”と呼ばれています。こちらは兵長に…」
リヴァイの机まで運び、“金のしずく”の入った紅茶のカップを置いた。
待ちわびていた気持ちをおさえ、平静を装いながら一口飲む。
やはり、昨日と同様奥深く、濃厚な味わいだった。
「…悪くない。金のしずくとは、ずいぶん面白い話を知っているんだな。」
リヴァイの「悪くない」にクレアの緊張はとけ、ホッとした。