第9章 駈けだす想い
しかし、気まずく思っていたのは意外にも、クレアだけであったようだ。
「なんだ、お前か…さっさとはいれ。仕事が大量にある…」
「さ、さっさと入れるなら入ってましたよ…いったいなにが起こってたんですか?」
「だいたいは聞いていた通りだ。壁外調査が間近になると、死ぬ前に抱いてくれと懇願されることがたびたびある…俺にとっては迷惑なだけだがな。」
エルヴィンが言っていた通りだ。
リヴァイはこんなにもモテるのかと思うと、クレアはため息混じりに感心をした。
それにしても今リヴァイは「たびたび」と言っていた。それを迷惑がるなど、どれだけリヴァイは厳しいのだ。
エルヴィンは潔癖すぎる性格のせいとかなんとか言っていたが、そんな理由で女の人を遠ざけるものであろうか。今出ていった女兵士は見た目はとても美人であったというのに。
──据え膳食わぬは男の恥──男の習性などはよくわからないクレアでも、こんな言葉くらいは知っている。美人にいい寄られて気分よくなる男はいても、けむたがる男はいないものだと思っていた。
「……兵長は、今みたいな時、気持ちに答えてあげたりは……しないんですか?」
中に入り、大量に積まれた書類を種類別に分けながらクレアはなんとなく聞いてみた。
「あぁ?!そんな面倒くせぇことするわけねぇだろ。まぁ、中にはそういう気持ちに答えてやる野郎もいるがな……俺には理解できねぇよ。あとあと付きまとわれるのも御免だ。」
「…………」
「あんな面倒くせぇ女より、今はお前の淹れた紅茶が飲みたい。頼んでもいいか?」
「…………!!はい!すぐに。」
クレアはすぐに立ち上がるとヤカンに水を入れて、沸かし始めた。
──そんなことはしねぇよ──
何故だろうか…そんな言葉にクレアは少しホッとしていることに気がつく。
そして、なによりもリヴァイが美人だった女兵士より、自分の淹れる紅茶の方に関心をしめしていることを嬉しく感じていた。
兵長は、私の淹れる紅茶が好きなのだろか…
ドキドキしながらティーセットをトレーに並べていると、まさかのリヴァイが仕事の手を止め、クレアの後ろまでやってきた。
ドキッ!!とひときわ大きくクレアの心臓は脈打った。