第59章 奇行種、奔走
クレアの心臓が限界までに心拍数を上げ、ヒヤリとした汗がツツッと背筋を伝った時だった。
ーカチャー
「オイ…大人の悪ふざけにしては趣味が悪いぞエルヴィン……」
「!?」
扉の開く音で金縛りが解けたクレアは、思いきり扉の方に顔を向けると、そこには眉間にシワを寄せたリヴァイが立っていた。
「…リヴァイ…?!」
「なんでこんなにタイミングの悪い所でやってくるんだ…そんな事が言いたげな顔だな。」
「いや…決してそんな事は…」
明らかに機嫌の悪いリヴァイに自然とクレアの頬に触れていた手を引っ込めたエルヴィン。
「お前の部下が慌てて俺の執務室まで呼びに来たんだよ。お前の目が覚めたから医師と俺達を呼んでこいとクレアから伝言を預かったとな。そしてハンジへの伝言を俺に頼むとそいつは医務室へと走って行った。」
「そう…だったのか…」
「その様子だと、末期まで頭がイカれている訳ではなさそうだな…」
「あぁ……」
エルヴィンの気不味そうな表情から、腕を失ったショックで我を失っている感じてはなさそうだ。
多少なりともクレアに触れた事に対して罪の意識はあった様だ。
「クレア…」
「は、はい!!」
「お前は今のうちに朝飯に行ってこい。エルヴィンの目が覚めたなら待った無しの仕事が山積みだ。それとハンジからランティスとイーグルの面倒も見といてくれと頼まれた。時間がないからさっさと行ってこい。」
「あ、あの…では、ハンジさんはどちらに?」
「あいつはコニーの所だ。先日のラガコ村での報告の再確認をしているんだろう。ほら、分かったならもう行け…」
「わ、分かりました!!」
クレアは大慌てで点滴の袋を変えると、敬礼をして部屋から出ていった。
「おいエルヴィン…いったいどういうつもりだ。」
クレアを追い出す様に食堂へと向かわせると、リヴァイはエルヴィンに睨みをきかせながらベッドサイドにあるイスに座り脚を組む。