第59章 奇行種、奔走
「あの…団長……」
いきなり口元の布をさげられてしまい戸惑うクレア。
しかし、エルヴィンはそんな戸惑うクレアの頬に左手を添えると、穏やかに微笑んだ。
「あっ……」
リヴァイより大きな手のひらが小さなクレアの頬を包む。
その手は優しくクレアに触れるが、これはリヴァイの手ではない。
クレアはビクッと肩を震わすと、条件反射で1歩後ろに後ずさりしてしまった。
エルヴィンを無節操な男と思ってした訳ではない。
寧ろ、誰にでも分け隔てなく優しいエルヴィンに対して、異性として警戒する事など失礼にあたると思っていたくらいだ。
だが、こんな風にいきなり触れられてしまえば驚くのも無理は無い。
この身体は、頭のてっぺんからつま先まで、全てリヴァイのモノなのだ。
心から信頼している兵団の責任者だからといって、こんな風に触れ合うのはイケナイ事なのではないのかと、クレアの中の何かが警告を出した。
しかし……
「クレア…逃げないでくれ。少しだけでいい。このままでいて欲しい…」
「だ…団長……」
頬に触れていた手をそのまま下におろすと、クレアの細い腕を握り力強く引き寄せる。
片手といえど、身長も体格も大きなエルヴィンが相手だ。
不意を突かれたクレアは引き寄せられるままにベッドに両手をついてしまった。
「団長……あの、その……」
いつも爽やかな表情を崩さないエルヴィンの視線の裏側に、焼けつく何かを感じたのは気のせいだろうか…
何にしても、この状況は決して宜しくない。
鈍感なクレアでさえも、さすがに理解できた。
だが、頭では分かってはいるが、強く掴まれた腕に、この熱を帯びた視線。
クレアの身体はどうしたら良いのか分からず硬直してしまい、囚われた兎のように動けなくなってしまった。