第59章 奇行種、奔走
髪を結び終えるとクレアは早速包帯をとり傷口の確認をする。
状態は悪くなかった。
「……化膿はしていませんね。時間はかかると思いますが、回復は順調だと思います。食欲がある様でしたら少しずつお食事も始めましょう。」
「あぁ…分かった…」
「では、消毒とお薬塗ります。少ししみるかもしれませんが動かないで下さいね。」
甲斐甲斐しく自分の怪我の処置をしてくれているクレアをよく見ると、結われた髪の影から真っ赤な跡が目に入った。
「………」
これは、怪我の跡ではない。
男と女の営みで残る跡だ。
くっきりと残るその赤い跡は、付けられてからそう時間はたってない。
おそらく昨夜リヴァイによってつけられたのだろう…
クレアは、こんな人の目につく場所に跡を残される事に抵抗はしなかったのだろうか…
強引に首元に噛みつくリヴァイに、抵抗もせずされるがままの従順なクレアを想像してしまったエルヴィンは、ドクンと下半身に大きく脈打つ感覚を覚えた。
幼い容姿である事がかえってエルヴィンの中の背徳感を煽り、よからぬ妄想に拍車がかかってしまう。
自身の下半身は布団に隠れているからといって、見えなければいいというものではない。
献身的に看護をしてくれている兵士に対し、していい事では決してない。
クレアへの想いはだいぶ前に断ち切ったはずだ。
だが、片腕を失い、それでも自分は自身の野望のために戦わなければならない。巨人化する人間の存在に、エレンやヒストリアの謎。それを取り巻く壁内の中枢が隠していると思われる知られざる情報。
それらの全てを紐解き、真実を明るみにするにはこの壁内の情勢を全てひっくり返すつもりで挑まなければならないだろう。
そのためには今まで以上の犠牲も覚悟をしなくてはならない。
重くのしかかる自身の野望と、団長としての責任。
心身共に疲弊していたエルヴィンの中に眠る黒い悪魔が、そっと耳元で囁いた。