第59章 奇行種、奔走
そして痛々しい右腕の包帯を取ろうとクレアが触れた時だった。
「………っ……うっ……」
静かに眠っていたエルヴィンの表情が変わった。
「団長…?!」
エルヴィンの眉間にはシワが寄り、瞼が震えている。
意識が戻ったのかもしれない。
「す、すみません!!先生を呼んできて下さい!あっ!それと…ハンジさんとか、リヴァイ兵長にも声をかけられたらお願いします!!」
「分かった!すぐに呼んでくる!」
付き添っていた兵士が部屋から出ていくと、クレアは必死にエルヴィンに呼びかけた。
「団長…エルヴィン団長…!分かりますか?」
少し肩を揺すってみると、ゆっくりと目が開き青い瞳と目が合う。
「……クレア、なのか?」
「よかったです…どこか痛む所はありませんか?」
何日も気を失っていたエルヴィン。
発熱もしていない。
これで一安心だろうと思ったのだが、エルヴィンの第一声はクレアの想像していたモノとは全く違っていた。
「クレア…君は超大型巨人の熱風からハンジを庇って怪我をしたと聞いていた。大丈夫なのか…?」
「え……?」
確かに自分はハンジを庇って火傷を負った。
だが、そんなのはエルヴィンの怪我に比べたら何でもない。
「団長…私はたいした怪我でないので心配は御無用に願います。そんな事よりご自身の心配をされて下さい。点滴で薬を入れてますが…失ってしまった右腕の傷は…痛みますか?」
「…いや、薬が効いているのだろう。今はそこまで痛くはないよ。だけど、不思議だな…自分の腕がなくなるという感覚は…まだ力を入れればなにかを掴めそうな感じがする。腕がなくなった事に慣れるまでには少し時間がかかりそうだな…」
そう言いながらフッと自虐的な笑みを浮かべたエルヴィン。
こんな時でも気丈に振る舞うエルヴィンの姿に、クレアの胸はギュッと痛んだ。