第59章 奇行種、奔走
「いや、こっちの話だ。分からなきゃ分からないでそれでいい。」
「兵長…?」
確かに“理想郷”の話をしたのは自分だ。
だがしかし、リヴァイは食べ物よりは酒や紅茶が好みで、自分の“理想郷”論なるモノには無縁だと言っていた。
それなのに何故?
クレアは起きぬけのまだ働いてない頭をフルに動かすが、疑問符が消えることはなかった。
「ほら、着替えに戻るならここでシャワー浴びてけ。」
「…??」
「まぁ、大浴場に行きたいと言うなら別に止めないが…」
そうだ、昨夜は意識を手放してしまいシャワーも浴びずに眠ってしまった。
兵服に着替える前に汗を流したい。
時間的には大浴場に行く時間もありそうだが、ふとはだけてしまった胸元に目をやると、ありえない数の赤い跡。
「な、なんですかコレは……」
こんな姿ではとてもじゃないが大浴場など行けやしない。早朝とて利用者はゼロではないのだ。
「なんだよ、覚えてないのか?もっとつけてくれとねだったのはクレアだろ?」
「…………」
全く覚えていないというのは嘘になるだろう。
たが、まったく正気の状態で言ったというのもなんだか違う気がする。
昨夜の自分はどうかしていた。
意地悪な程リヴァイに焦らされ、無理難題な要求ばかりされて少しおかしくなっていたのだろう。
そう思い込まなければ心臓がいくつあっても足りない。
「あ、あの…シャワーお借りしてから部屋に戻ります。」
クレアは勢い良く起き上がると、リヴァイを跨ぎベッドから下りようとしたのだが…
「あっ……」
片足を床についたところで、リヴァイの両腕がクレアを少し強引に、でも優しく包み込んだ。
「昨夜のお前は……悪くなかった…2人きりの時くらい、何もかも忘れてくれ。その方が…俺も嬉しい。」
そんな言葉を背後から囁くと、クレアの耳朶にそっとキスをした。