第9章 駈けだす想い
──時遡ること数分前──
リヴァイはクレアがくるよりも先に執務室に来ていた。
仕事の量が多く、いつもより早くきてしまったが、クレアもまもなく来る頃だろう。
また昨日の紅茶を淹れさせようと待っていると、執務室にノックの音が響いた。
クレアはカギを持っている。
こんな朝方からいったい誰だと思ったが、なんとなくの予想がつき、ため息をつきながら返事をした。
「入れ。」
──カチャッ──
控えめな音をたてて扉が開くと、入ってきたのは女兵士だった。
「何の用だ。」
「あの……兵長、まもなく壁外調査です。ここまで、なんとか生き延びてきましたが、もう生きて帰れる自信がありません。遺書も書きました。死ぬ前に、兵長への気持ちを伝えないと、後悔でなりません。」
「……………」
「兵長、一度だけでいいんです…最後に抱いてください。」
「…またその手の話か。断る。さっさと部屋に戻れ。」
またか……リヴァイは盛大に舌打ちをした。
壁外調査が間近になると、こんな女兵士が押しかけるとこがたびたびあり、リヴァイは頭を悩ませていた。
相手にする気はこれっぽちもないのだ。
毎回断るが、相手も結構しつこく食い下がってくる。
「兵長……お願いです!死ぬ前に…一度だけでいいんです…」
「あぁ?!何度も言ってるだろう。そういう趣味はねぇ。死にたくねぇなら死ぬ気で訓練に励め…」
「そんな、兵長……お願いです!誰にも言いません…抱いてください!」
──ガタンッ──
座って執務をしているリヴァイにいきなり抱きついてきた。
「おい…!やめろ!」
こうなってはつまみ出す他に無さそうだ。
「いい加減にしろ!もうでていけ!」
「あっ!兵長…!」
女兵士の両肩を押し、引っ剥がすと腕をつかんで執務室の扉まで引っ張っていく。
思いっきり扉をあけて押しだすと、扉の右側の壁に、よく知る小さな兵士がぴったりと壁に背中をつけていた。
リヴァイにせまっていた女兵士は、一瞬クレアを睨むと、泣きながら走っていってしまった。今リヴァイとクレアはなんとも気まずい状況で2人っきりになってしまった。
自身の左側にリヴァイの存在を感じるが、クレアはなかなかそちらをむくことができない。