第9章 駈けだす想い
「特にクレアはさ……可愛いし、ちょっと無防備だから、なんか狙われちゃいそうで、私は心配なんだよ。」
ハンジの手が過保護にクレアの頭を撫でる。
「そ、そんなことありませんよ。こんな子供っぽい私を襲う人なんかいませんってば。」
兵団内で治安が悪くなる話など、クレアにはなかなか信じることができず、どこか他人事のように話を理解してしまった。
「あ、ここまでくれば、すぐそこなので、もう大丈夫です!ありがとうございました!」
クレアは無邪気に笑い手を振ると、走って自室の扉をあけて入っていった。
「はぁ…もう、クレアはなんにもわかってないんだからぁ……」
死を目の当たりにして理性を失った人間の怖さを、クレアはまったくわかっていない。
そして、自身の容姿のことも。
ハンジはため息を1つつくと、来た道を戻り、執務室へとむかった。
──翌朝──
クレアはいつもの時刻に起床し、リヴァイの執務室にむかったがカギをあける前に、いつもと様子が違うことにすぐに気がついた。
中からなにやら話し声が聞こえる……
兵長はもう来ているのだろうか……
「(兵長……お願いです!死ぬ前に…一度だけでいいんです…)」
「(あぁ?!何度も言ってるだろう。そういう趣味はねぇ。死にたくねぇなら死ぬ気で訓練に励め…)」
「(そんな、兵長……お願いです!誰にも言いません…抱いてください!)」
──ガタンッ──
「(おい…!やめろ!)」
………………………!!
いったい何が起こっているの?
女の人が「抱いてくれ」と言っていた…
こんな朝方から何が起こっているのだろうか…
クレアは扉のすぐ横の壁に背中をピッタリつけると、そこから動けなくなってしまった。
リヴァイの執務室の掃除は1日も休まずしてきたのだ。今日に限ってサボるのも不自然極まりない。
だからといって今中に入れるわけもない。
「どうしよう…」
悩んでいると、執務室の中がまた少し騒がしくなる。
「(いい加減にしろ!もうでていけ!)」
「(あっ!兵長…!)」
つまみ出すつもりだろうか?
クレアは逃げ出したかったが、足が固まって動かなかった。