第9章 駈けだす想い
今聞いたことは嘘ではないのだろうか、クレアは信じられずに目をパチパチとしたままハンジを見つめてしまう。
「アハハハ、驚いてるみたいだね!じゃあクレア、改めてもう1度聞くよ。壁外調査、無事に戻ってこれたら1人前として私の仕事を手伝ってくれるかい?」
そんな答えなど、とうに決まっていた。
「は、はい!もちろんです!」
クレアは満面の笑みでハンジに抱きついた。
「ありがとうございます!ハンジさん!嬉しいです…」
クレアにも絶対に生きて戻ってきたいという明確な目標ができた。
ハンジもそのつもりで、このタイミングまで黙っていたのだ。
今までに何人もの仲間や部下、新兵を亡くしてきたハンジは切なく笑い、クレアの頭を優しく撫でる。
「さぁ、明日に疲れが残るといけないから、今日はもう上がって!」
「ふふ、壁外調査まではまだ半人前なんですね。」
クレアは手際よく帰り支度を始めた。
「そうだよ、壁外調査、行って帰ってこれたら1人前なんだからね!…あっ!いけない!クレア。今日から壁外調査までは、女子棟まで送るから一緒に行こう。モブリット、続き頼んだよ。」
「えー?どうしたんですか?急に……」
「歩きながら説明するからさ、ほらっ。行くよ。」
ハンジはクレアの手を引いて執務室を後にした。
──コツコツ──
シンと静まりかえった廊下に2人分の足音がなり響く。
「あの…ハンジさん?いったいどうしたんですか?」
「んーと、なんて言えばいいかなぁ…壁外調査前って、ナーバスになる新兵が少なからずいるんだよね……特に初陣前って、やっぱり兵士辞めたくなっちゃう子とかもでてきてさ……」
「は、はい………」
クレアはまだハンジの話の意図がよくつかめていないようだ。
「自暴自棄になって女の子襲っちゃうヤツとかいるんだ……まぁ毎年いるってわけではないんだけど…」
「えぇ?そうなんですか……」
「だから、夜は一人で出歩かないで。どの班の班長も、この時期だけは、女の子の新兵に話をするようにしてるんだ。何かあってからでは遅いからね……」