第58章 奇行種の魅力
「ありがとうございました、またお越し下さいませ!!」
店員の笑顔に見送られて店を出ると、外はまだ明るくて賑わっていた。
気温も上がり春真っ盛りだ。
よく見ると所々屋台の様な店もでている。
「まだ明るいな…少し歩くか?」
「はい!!」
すると、リヴァイはこの店に来る道中と同じくクレアの手を取った。
「………」
…幸せだ。
こうして大好きなリヴァイと手を繋いで歩いている。
それだけで、深い幸福を感じる事ができる。
リヴァイの事が愛しくて愛しくて、温かな気持ちで胸がいっぱいになっていく。
きっと今の自分は心の底から幸せなのだろう。
だが、思い出してはチクリと胸が痛むのは、リヴァイにもマリアにも言った言葉。
調査兵である以上、そう遠くない未来に死が待っているという事。
どこまで生きていられるかは自身の技量と運にかかっている。
こんな温かな空の下で、あと自分は何回こうしてリヴァイと手を繋いで歩けるだろうか。
“今”目の前にある幸せを精一杯大事に生きていくのが1番だと分かっていながらも、ついつい考えてしまうのはそんな事。
気づけばリヴァイの手を強く握り返していた。
「…マリアには、ちゃんと渡せたのか?」
「…え?」
「フレイアとエルドの遺品だ。マリアは納得してくれたか?」
そんなクレアの心の内を察したのか、リヴァイが問いかけてきた。
「あ、あの…エルドさんの死には心を痛めていましたが、遺品は受け取ってくれました。」
「そうか…」
「私がマリアに託したかった想いもちゃんと理解してくれて…それで、マリアは訓練兵団に入るのはやめたんです。」
「ん?どういう事だ?」
「マリアは、フレイアの意志を継いで調査兵団に入ろうとしていたみたいですが、私がマリアに遺品を託した理由を話したら、マリアは“生きて、生き延びて、この遺品を守り続ける事”を自分の戦いにすると、言ってくれたのです。」
あの時の迷いの無いマリアの表情を思い出したのか、クレアの口元が微かに笑みを浮かべた。