第57章 託す想い
「…うん……勿論死にたくなんてない。でも、きっと私は…お婆ちゃんになるまでは生きられないと思う。“その時”がいつかは分からないけど、そう遠くない事も確かだわ……」
「……………」
クレアの返事を聞くと、マリアは再度問いかける。
「私が調査兵になって壁外調査で死んだら、お姉ちゃんにエルドさんは悲しむと思う…??」
「勿論、2人は悲しむと思う。もう彼らと話をする事はできないけど、それは断言できる。フレイアもエルドさんも…どんな形であれ、貴女が死ねば、空の向こうで涙を流すはず…」
「そっか……」
ポツリとそう呟くと、よく晴れた青空を眺めながらマリアは続ける。
「ねぇ、クレアお姉ちゃんは、私が兵士目指すのやめるって言ったら、どんな風に感じる?やっぱり臆病者の弱虫…かな…?」
「……え?!」
「この形見のネックレス…2人が勇敢に戦った戦果である証を、私が生涯生きて持ち続ける事って…何か…意味あるモノにできるかしら……」
「マリア……」
巨人化できる人間がいるという事実が出てきてから、この壁内をとりまく全ての運命が180度ひっくり返ってしまったと言っても過言ではない。
このまま壁内にいる人類側が劣勢続きになれば、兵士だけではなく、一般の人間すら“生きる”というそのもの自体が戦いになりかねない。
だからこそ、マリアの言っている事が十分に理解できたクレアは、少し声を荒げながら訴えた。
「マリア…巨人を討伐する事だけが戦いじゃないと私は思ってる。生きて、生きて、生き抜いて、大切な想いを守る事も…立派な戦いであると同時に勇敢な事だと思う。だから、マリアの言ってる事、間違いじゃない……!!」
兵士となって巨人を討伐するだけが戦いではない。
兵士には兵士の
商人には商人の
農家には農家の
娼婦には娼婦の
どんな人間だって必死に戦っている。
クレアは、マリアがその事に気づくと、なんとかその背中を押してやりたくなってしまった。